その他

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ティファは参ってしまっていた。デンゼルが、少しも引き下がろうとしないからだ。

「クラウドの様子がおかしい」
「ティファだって――」

ティファだって気付いてるくせに。

そう、本当は気付いてる。それにその原因も――多分、分かってる。

最近のクラウドは確かにおかしい。クラウドがおかしいのは常日頃そうなのだが、そういうこととは違う。

表情が豊かになったのだ。それだけ聞くと良いことのように聞こえるけれど、仏頂面の鉄仮面が突然取れて、気持ち悪いくらいにニコニコ笑うものだから、気味が悪くてしょうがない。

それから、仕事をとちる。あの几帳面な男が、配達先を2回も3回も間違えた。苦情も何件か来たし、バレットからの依頼で彼の所に荷物を運んだ時なんて、肝心の荷物を持たずに配達に出てしまった。(ただししっかり嫌味だけは置いてきたらしい)

普段あれだけポーカーフェイスなくせに、いざって時にまったくあの男は……。

一人店の片付けをしながら、ティファは胸の内でそう悪態をついた。

(デンゼルも、マリンも心配してる。彼女だって……)

「あーあ、クラウドは良いよね、人気者で」
「人気者はティファだろ」

独り言に返事が来たので驚いて振り向くと、いつの間にかクラウドが配達を終えて帰って来ていた。今は仕事で疲れているためか、いつもの仏頂面だ。

「ニブルではね」
「あの頃のティファは本当に凄かった。誰からも好かれてて」
「やめてよ。そういうクラウド君は、酷い不良少年だったよね。毎日毎日、喧嘩喧嘩」
「やめてくれ」

笑いながら、席に着く。困ったようなその笑顔は、全く以て彼らしくない。

ティファはふっと真顔になる。

「クラウド――貴方、最近変よ」
「俺がおかしいのはいつものことだろ」

ほらねデンゼル、本人も言ってる。

「そうじゃなくて…」

話を切り出してはみたものの、どう話を進めて良いか迷った。どうもニブルヘイム出身者は不器用に育つらしい。こういう、謀のような事は苦手だ。

「最近、凄く笑うようになった。その…気持ち悪いくらいに」
「そんな事言われたって」いじけたように顔をしかめる。「俺にだってよく分からないんだ」

その表情だって少年みたいで、いつもの彼とは程遠い。そう、笑い顔だけでなく、喜怒哀楽がよく表れる。表情が豊かになった。

「ねぇ、しばらく仕事を休んだら? お客さんが減っちゃうわ」
「いや…本当に気をつけるから。大丈夫だ」
「エアリスさんの事でしょう」

ああ。

やっぱり自分には向いていないんだ、言葉巧みに話を聞き出すなんて事は。どうしていきなり核心に迫ってしまったのか。

「……」
「命日、近いもんね…」
「…ああ」

クラウドは、観念したように呟いた。「そうか」とも。

その表情からは、どこか安心した様子も見て取れた。

「ごめんねクラウド…もう少し気の利いた言い方が出来れば良かったんだけど…」
「いや、良いよ。話してくれて…気付いてもらえて、少し気が楽になった」

クラウドは目を伏せた。

彼は分かっていなかったのだ。自分に異変が起きている事には気付きつつ、どうしてそうなったのか、何が自分の心を乱しているのか、肝心な事は何も知らなかった。そうした浮ついた気持ちで、何度も仕事をしくじった。その疑問がやっと、解けた。

「――クラウド、やっぱりしばらく配達はお休みしよう。デンゼルも心配してる。あと1週間くらい、のんびりしてたら良いじゃない」
「うん、悪い、ティファ。そうする。もう寝る」

それだけ言って自室に上がろうとする。その背中を見てふとある事を思い出し、ティファは咄嗟に彼を呼び止めた。

「クラウド――と」
「何だ?」
「あー」

何となく、目を逸らす。

「…貴方にとって、嫌な報告があるの。今聞きたい? それとも明日にする?」

クラウドは気怠そうに唸った。多分、安心して疲れが一気に押し寄せて、相当眠いのだろう。

「これから眠ろうという人間に向かって何て事訊くんだ――明日聞くよ」

翌日、クラウドは「女装は断じて趣味ではない」とデンゼルに言って聞かせる前に、ティファとちょっとした喧嘩をする事となった。



つづく

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