その他
□おはよう
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くぁ、と何度目かの欠伸をする。
まったく、眠くて仕方がない。毎朝毎朝同じ時間に登校して来なくてはならないし、周りには同じような格好をした人の群れで、変わり映えしない景色しか見えないし。
勉強したって自分の頭ではどうせ将来なんて高が知れているのだから、せめて今くらいは自由にさせてほしいと、ザックスは不満ともつかない不満を並べる。こんなのはただ、早起きの辛さの延長でしかないのだ。
そんな低血圧な思考で見る、“変わり映えしない景色”――見慣れた制服の群れの中に、目を引くものがあった。
ハッとする程綺麗な金髪。
クラウド・ストライフだ。
「クーラウドっ!おはよ」
反射的に駆け寄って、肩を組む。少し力が強すぎたのか、クラウドが小さく呻いた。
人によっては「馴れ馴れしい」と嫌がられる事もあるけれど、こういうノリはある種の癖なので、そう簡単には止められない。それに、持ち前の馬鹿力は問題としても、この行動自体は親愛の印な訳で、咎められる理由は無いと思っている。
しかしやっぱり嫌がられてしまった。
「ああ…」と言って肩に掛かる腕をゆっくり引き剥がすと、こちらを一瞥しただけで、普通に歩き出した。慌てて追いかける。
「わ、悪かったって!ちょっと力が強かったかもしれないけど、悪気は無かったんだ。なあ、機嫌直せよ」
「…別に、怒ってないけど」
とてもそうは見えない。
「こういう顔だから」
「またまたぁ〜。この前はあんなにケタケタ笑ってたじゃんか」
「…」
今日はえらく機嫌が悪い。それは自分のせいなのか、それともクラウドの言うように、これが彼のデフォルトなのか…ザックスは頭を抱えた。
頭を抱えていたら、
「クラウドー!」
後ろからそう声がして振り返ると、遠くから小柄な少女が走って来るのが見えた。長い髪が風になびく。
「ティファ…」
顔見知りらしい。
どうやらあちらもご機嫌ななめだ。
「どういうこと!? 喧嘩はしないって、約束じゃない!」
追いつくなり、そう一吠え。
「手は出してない」
「そういう問題じゃない!小学生相手に、ガン飛ばすって何事よ!」
少女の眼力もなかなかのもので、蚊帳の外にいるにも関わらず、ザックスはたじろいでしまった。
「別に。ちょっと睨んだだけだ」
「小学生が泣いて逃げ出す程、睨んだだけ? あなた、自分の立場分かってるの!?」
その言葉に、クラウドが冷たく笑った。
「はは、あいつら泣いたんだ。それで、先生に助けでも求めた?」
「クラウド!」
「俺は何も悪いことはしてない」
そう言い放つクラウドの目は、一切の感情を断ったように冷たかった。孤独を愛する狼の目。一瞬、息が詰まった。