お題集
□驚きの連続
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ショックだったのは、リックが本気でおれに剣を向けてきた事。そうしなければ死んでしまうから。そうしなければ、生きて行けないから。
コロシアムは歓声に溢れていて、罪人を早くなぶり殺せと野次が飛ぶ。誰かの命を奪う事も、演出を凝らしてエンターテイメントに変わる。ここはそういう世界。
また、光が反射した。リックが剣を振りかざしたからだ。
「うわっ」
おれはとっさに飛び退いた。鋭い切っ先が、おれのすぐ横で空を斬る。けれどいつまでもそこに気を取られてはいられなかった。リックは息つく間もなくおれに斬りかかって来た。おれはただ逃げる事しか出来ない。
罪人に圧倒されるおれにブーイングが起こった。
「…お前らおかしいだろ!こんな殺し合いなんて見物して、何が楽しいんだよっ!」
「おかしいのはアンタの方さ」
リックは笑っていた。多分嘲笑だ。
「アンタが今までどれだけ良い暮らしをしてきたか知らないけどな、ここに来たからには…」
リックはそこで剣を握り直し、
「腹を括れよっ!」
そう言ってまた斬りかかって来た。彼の目は本気以外の何物でもなかった。
腹を括るって何だよ。死ねって事か。いや、実際そう言っているんだろう。だけど、おれは嫌だ。こんなのは嫌だよ、リック。
だからおれは、おれに出来る事を…
「…出来る事をするだけだぁ!」
彼らが精一杯生きているのは分かる。けれどその必死さは何かが違う。どこか虚しい。
悲しくはないか。殺し合いを平気でやってのける自分の心の奥で、本当は何か叫んでいるんじゃないか。この世界は何かがおかしい。
おれはそれを知らなさすぎる。
驚きの連続
(だけど、立ち止まる事は許されない)
fin.