あいのうた

□約束
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* * * * *


「うぅー、うぅー」
「おかしな声を出すな」
「だってー、グウェンダルーぅ」

朝から晩まで執務に没頭して、3日目になる。

なのに書類の山は一向に減らない。おかしい。絶対におかしい。

「おかしな声を出すな!」
「それよりこの書類達はどこから涌いて出るわけ? サインが追いつかないんだけど」
「貴様が見栄を張ってあれこれ手をつけた結果だろう。私が最初に指定してやった範囲ならもうすぐ終えられた」
「うっ、だって…か、格好良いところを見せたかっ……」
「なら黙って手を動かすんだな」
「…はい」

鬼だ。コンラッドになんて全く似ていなかった。ただの鬼だ。

しかも、格好良いところを見て貰いたかった当の相手は、あれから一度も執務室に顔を出さない。多分おれに気を使ってか、夜も別室で寝ている。食事は執務室に運んで貰っているので、グレタとの接点は皆無と言って良い。

つまりおれは、この3日間グレタに会っていない。

「うあーグレタが足りなーい」
「貴様の集中力は蚤か?」

なんて酷いことを言うんだと思ってから、彼がおれのカンヅメに付き合ってくれていることを思い出す。こんなうるさい野球小僧と四六時中一緒にいるんだ。それくらいの悪態で済んでいる彼のことは、聖者と考えてまず間違いない。おれは大人しく口をつぐむ。

と。

コンコン。

「失礼します、陛下、グウェンダル。差し入れを……」
「ああ、本物の聖者!」

コンラッドがティーセットを押して現れた。どうしてこうも絶妙のタイミングで現れるのだろう。彼こそ聖者か、もしくは神様に違いない。いやむしろ神だ。

まあ…魔族だけどさ。

「うわあ、全然減りませんねぇ」
「それを言うなよコンラッド…」

彼は笑って、

「まぁまぁ、あまり根を詰めても逆効果ですからね。どうです、ここらで休憩を挟まれては?」
「うん!そうするー」
「…」

フォンヴォルテール興の冷たい視線はこの際気にしないことにする。何故ならおれは今正に集中力のリミットを越えてしまったからである。これ以上続けても能率は得られないと考える。

結局、グウェンも交えて3人でティーセットを囲むことになった。この奇妙なお茶会も今回で3回目である。

「それで…グレタはどうしてる?」
「はい。毎日元気に過ごしてますよ。敬語を使うことも、以前よりは減っています」
「そっか…」

相変わらず、夜泣きは続いているらしい。ただし、前のような城中に響き渡るようなものではなく、すすり泣き程度に落ち着いているとのことだ。

しかし、夜泣きが続いているということは、少なからず彼女に寂しい思いをさせているということだ。その事実は変わらない。それを考えると、やっぱり、少し…焦る。

「焦るくらいなら手を動かせ」

うっ。

「グウェン」苦笑いのコンラッド。「焦っても仕方ありませんよ。グレタはちゃんと分かってますから、あまり気を張りすぎずに」
「うん、分かってる。でも…早く会いに行ってやらなくちゃ。一秒でも早く、グレタを笑わしてやりたいんだ」

決意も新たに、再び机に向かう。

そんな調子で日々が過ぎ、ようやくやるべき事が終わったのは、それから3日後――グレタと約束を交わして一週間後だった。


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