今日から君と

□喪失
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* * * *




おれ達はヴォルフラムが寝ているという一室にバタバタと駆け込んだ。

「ヴォルフラム!」
「お静かにお願いします!」

叱られてしまった。

おれを一喝したのはギーゼラだった。部屋には彼女と、不安げな表情を浮かべるグレタ、それにアニシナもいた。

“赤の悪魔”ことフォンカーベルニコフ卿アニシナ。いつもの如く、その立ち姿は自信に満ち溢れている。どうやらずっとグレタに付き添ってくれていたらしい。彼女には頭が上がらない。

彼女達はヴォルフラムの横たわるベッドを囲んでいた。当の本人は、目を閉じたまま動かない。

「それで、ヴォルフラムは?」

コンラッドが冷静に訊ねる。

「はい…今はただ眠っているだけです。命に別状はありません」

そう答えながら、ギーゼラはぎこちなく笑った。「じきに目を覚ますでしょう」
「そ…」

おれは、体中の力が抜けていくのを感じた。

「…っか、良かった…」

良かったけれど、それじゃあギーゼラの表情が晴れない理由は何だ?

「しかし、他に気掛かりがある?」

コンラッドの言葉に、ギーゼラの目が泳ぐ。

「いえ、あの…」
「命に別状は無いものの、気になる事があるのです」
「アニシナ!」

言葉を引き継ぐアニシナを、ギーゼラが遮る。

「何ですか、ギーゼラ?」
「閣下は無事です。陛下にお知らせして、無駄に不安を煽る必要はありません」
「何なに、おれに隠れて秘密の話? 楽しそうだね、混ぜてよ」

目の前で堂々と内緒話をされるのは腹が立つ。

「必要無いかどうかはおれが決める」
「陛下…」
「陛下の仰る通りです」

アニシナがまた一段と胸を張った。

「これしきの話で心挫けるようでは、眞魔国の将来をお任せするなど到底無理です。まったく、最近の娘ときたら。脆弱な養父を持つと脆弱な思考の娘が育つのでしょうか」

だーれーのー父が脆弱だコラとでも言いたげなギーゼラの視線をさらりと無視して(というかそもそも気付いていないらしい)、アニシナはグレタに話を振った。

「自分で話せますね、グレタ」

そう言って、ずっと俯いている少女の肩に手を置く。グレタは少しだけ顔を上げると、こくんと大きく頷いた。

「グレタ…?」
「…ヴォルフラムが倒れた時、グレタ、一緒にいたの」

絞り出したようなその言葉に、おれは目を見開いた。

「あの後…ユーリからお部屋を出るように言われた後、ヴォルフのお部屋に行ったの。心配だったから…。だけど途中で会って、『もう大丈夫なの?』って訊いたら『大丈夫だ』って言って。でも、全然、元気そうじゃ…なくて……」

目にいっぱい涙を溜めて、今にも泣きそうな顔で、グレタは続ける。

「ユーリとコンラートはまだお部屋にいるって話したら、ヴォルフラムが雨の中に歩き出して、また『大丈夫だ』って……」

そうして倒れたのだと言う。

グレタはついに泣き出した。


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