年末CD企画

そうして私は今日も何も知らないふりをして笑うのです
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*BASARA
半兵衛夢っぽい。
でも甘い要素は一切無い。
むしろ皆無と言ってもいい。





半兵衛様は結核を患っている。

隠していらっしゃるつもりなのだろうけど、私にしてみれば丸分かり。だって私は半兵衛様の小姓ですから。戦以外はほとんどと言っていいほど側に居るのです。だから、気付かないわけないのです。


ある春の晴れた日、私が縁側を歩いていると、中庭を散歩されている半兵衛様を見つけた。
木と木の間に挟まるようにしているところは、一見隠れん坊をしている子供たちのようだ。
縁側を二段降りた所にある草履を履き、半兵衛様の近くに行く。


「半兵衛様」

「あぁ、君か。どこに隠れても君には見つかってしまうね」

「半兵衛様はお隠れになるのがあまり上手ではございませんから」


手元にある布に目を向けて、出来るだけ笑顔で答える。
知らないふりをしなければ、きっと半兵衛様を傷付けてしまうだろうから。


「君も、なかなか隠し事が下手みたいだね」

「そうですか?これまで一度たりとも嘘は見破られたことはございませんが…」

「でも、僕には通用しない」

「あら、ではどのような?」

「それは言えないよ」

「では、見抜かれてはいないということで」


ふふ、と袖で口元を隠して笑う。半兵衛様も薄く微笑んでくださった。
二兵衛と謳われる半兵衛様はとても頭が良い。だから、私の腹の内など綺麗に見抜かれているのだろうけど、それを私にお言いにならないのは優しいからなのだろうか。


「……半兵衛様」

「なんだい?」

「お隠れになるのは、おやめください。もう少し上手になられたらで、よろしいではありませんか」

「……そう、だね」


半兵衛様は木の狭間から抜け、体いっぱいに陽射しを浴びた。


「これでは元就くんみたいだね?」

「しかし、お日様の光は体に良いと聞きます」


半兵衛様は何も言わなかった。
私も何も言わなかった。言葉という陳腐な伝達媒体でこの時を埋めてしまうのが勿体ない気がしたから。
言霊に宿る力を外に放出したくないから。


「できるだけ隠れないよう、頑張ってみるよ。君の忠告通りね」

「ありがとうございます」


深々と頭を下げると、半兵衛様は肩掛けを翻して屋敷に戻って行った。

私があなたの本当のことを周りに言わないのは、私のため。
もし私がこれを言い触らして、あなたに話が届き、それを認めてしまったら私の思い過ごしではなくなってしまう。
出来ればこれが思い過ごしであってほしいとの願いを込めて、私はあなたの真実を胸にしまい込んでいるのです。
淡く儚い、願いを込めて。







そうして私は今日も何も知らないふりをして笑うのです

(限られた貴方との時間を幸せで満たせるように)










捕捉:お隠れになる→(偉い人が)お亡くなりになるという意味もある


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