年末CD企画

ジュリエット、そろそろ悲劇の時間だよ
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※黒子のバスケ
帝光時代。夏休み前か夏休み中、くらい








バッシュのスキール音。ボールがバウンドする音、ネットが揺れる音。そして、楽しそうに笑うあなたの声。ここが皆の居場所だ。でも、もうちょっとでさよなら。
私たちは卒業して、ばらばらになるんだ。
“キセキの世代”としてのチームは全中が終わればもうない。これからはお互いライバルとして、コートでまた出会うんだ。
味方で良かった、なんて言うけどこの5人は本当にその言葉がぴったりだと思う。敵になったのなら結果は全く見えないのだから。


「また負けたッスー!」

「はっ、残念だったな黄瀬!帰りマジバで奢れよー」

「あと一回!リベンジのチャンスを下さいッス!」

「黄瀬、男らしく諦めるのだよ」

「緑間っちはカタ過ぎなんスよ!青峰っち!この通りッス!」

「黄瀬ェ、やる気が足んねぇんじゃねぇのか?」

「赤ちんきびしーい」

「仕方ねーな、もう一本相手してやるよ!」

「負けないッス!」

「……頑張ってください」


そうだ。
これで最後なんだ。
中学で最も多く公式戦をやるのは多分ウチだろう。いや、ウチだ。
今年だって王者帝光として十分過ぎる実力を振るっている。
それでもまだ足りないと思うなんてどうかしてる。でも、思わずにはいられない。この時が終わったら、私たちはどうなるんだろう、と。
三年に待ち受けるのは引退だ。それからしばらくしないで卒業。高校入学。彼等は全員バスケを続けるだろうから春の大会がある。
そう考えるとバスケから離れる期間は短いのだろうけど、そういう問題じゃない。
私が感じているのは、もっと別の負の感情だ。でもどうして私がそれを抱くのかが理解できない。

私が物思いに耽っていると、黄瀬くんの「また負けたッスー!」という叫びが聞こえた。
はっ、と我に返ると壁を背に立っている私の隣に座り込む青峰くんがいた。


「………お疲れさま、青峰くん」

「おう」

「黄瀬くん、強くなった?」

「前よりすげえ上手くなってる。でも俺にはまだまだ及ばねぇな」

「……でも、楽しそうだね、青峰くん」


最初に彼を相手にしていた時と比べると、汗の量も増えたし呼吸も荒い。それだけ彼も上手になっているんだろう。


「当たり前だ」

「えっ」


意外な答えが返ってきて私はびっくりした。
青峰くんが黄瀬くんの成長を楽しんでるなんて。てっきり抜かされる可能性を不安がってると思ったのに。


「…どうして?」

「どうしてってオマエ、高校でアイツと当たるとき、強けりゃ強いほど楽しめるだろ」

「高、校………」

「高校には強いヤツがいる。そいつらと黄瀬がチーム組んで俺にかかってくれば、って考えると早くやりたくて仕方ねぇ」

「強い、先輩……」

「だからアイツが上手くなってくのは俺だって嬉しいんだ」

「………そう、だね。うん。その通りかも」


中学で最強だった彼らも、高校ではどうだか分からない。一度戦った先輩でもさらに強くなってるかもしれない。戦ったこともない先輩がいるかもしれない。
そんな強い人達にチームメイトが加わって、さらに強くなって自分に挑んで来るのが楽しみでしょうがないんだ。
自分を負かす逸材を、彼は高校に託したんだ。


「青峰くん、そろそろゲーム始めるので準備して下さい」

「おう、分かった。テツ」

「桃井さんも審判お願いします」

「あ、了解、テツくん」


シックスマンのテツくんに呼ばれて、青峰くんは立ち上がる。首にかけていたタオルを放り投げてコートに向かおうとするのを私が呼び止める。


「青峰くん!」

「あ?」

「高校、楽しみだね!」

「おう!」


その時の私は、高校に入ってもあんな風に楽しくバスケをする彼を見れるのだと信じて疑わなかった。










(一番絶望したのは、誰?)







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