*BL Original novel・5*

□女子校男子!
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 春の始まりは曖昧だ。卒業には間に合わなかった桜の花が、入学には散り始めてしまっている。
 僕は、春だというのに肌寒い雨の中、傘の中からぼんやりと桜の木を見上げていた。なんだか、僕の存在も曖昧なものに感じて、心細くて震えていた。
 家の都合で中学を卒業と同時に引っ越しをして、知らない土地の、誰も僕を知らない高校に入学することになった。最初が肝心、とよく聞くが、学校生活のスタートラインで僕は出遅れた。一週間ほど風邪で寝込んで休んでいたんだ。
 友達を作るのは上手な方じゃない。不安を抱えた重い足取りで、それでもどうにか学校に向かっている途中、道路を勢い良く走り抜けたトラックから、水溜りの水を盛大に掛けられた。ずぶ濡れな僕は、校門の前で、僕を出迎えてくれていた桜の木を眺めていた。
「……水谷りゅう……」
 雨の音に混じって、僕の名前を呼ぶ声がした。傘の角度をずらして声の方を見ると、校門の前に、一人の男の人が立っていた。長身のジャージ姿は、傘を差していても濡れていた。
「今日から学校に来ると聞いていたのに、遅いので心配した。担任の遠江(とおえ)だ。風邪がぶり返すぞ。中に入ろう」
 担任だという遠江先生は、もしかしたら長い時間そこで僕を待っていたのかもしれない。なにしろ僕は、亀のような歩みでここまでやって来たのだから。
 遠江先生は、先に立って僕を校舎に案内してくれた。雨で煙る校舎を見上げると、古めかしい赤煉瓦造りで、伝統の重みを感じさせた。しばらく歩くと、ようやく校舎の入り口が見えてきた。先生は、昇降口に立った僕を振り返って、ンンッと顔をしかめた。
「まずは着替えるか。ついて来い」
 僕はズボンの裾に含んだ汚れた水だけ急いで絞って、極力廊下を汚さないようにソロソロとした足取りで先生の後を追いかけた。
 体育教官室と室名札が付いている部屋へ遠江先生は入っていった。僕も恐る恐る続いて中に入った。すると、先生がポーンとバスタオルを僕に投げてきた。
「着ている物全部脱げ。よく拭けよ。着替えを探してくる」
 先生に言われた通りに、僕はまずは髪の毛をゴシゴシとタオルで拭った。そして、びしょ濡れのブレザーを脱いだ。中に着ているシャツもびしょびしょだ。ノロノロとボタンを外しながら、ふと顔を上げると、遠江先生が僕のことをジーっと見ていた。僕のトロい動作が気になったんだろうか?
「体操服でいいか?お漏らしをする子はいないんで、下着の用意までは無いがな」
 僕は、下着までがずぶ濡れなことを見透かされ、恥ずかしくなった。僕の隣で、先生はカバッとジャージの上着とTシャツを重ねて脱いだ。いきなり筋肉質のムキムキな上半身を見せられ、貧弱な身体の僕はますます恥ずかしくなる。だけど、男同士だ。恥ずかしがっている方が恥ずかしい。先生は、新しいTシャツに着替えている。僕も、貸してくれた体操服に急いで着替えてしまおうと、もそもそと濡れたシャツを脱いだ。
「貸せ!風邪引くって言ってるだろう?!早く脱げ!」
 いきなり先生が、僕が頭の上に被っていたバスタオルを奪った。そして、素肌になった僕の上半身をゴシゴシ拭きだした。遠江先生はたぶん体育教師だ。体育教師イコール怖い人だから、僕は先生の言うことに従って、モゾモゾとズボンのベルトを外しにかかった。ズボンのホックを外した途端、先生の手が僕の腰をサラリと撫でた。
「アッ」
と、声を上げる間に、ペロンとお尻を先生の前に曝け出してしまった。水を吸って重くなったズボンが、足首まで下げられた。先生は、動揺する僕にお構いなしに、僕の下半身もタオルで拭いだす。
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