*BL Original novel・2*
□しゃぼん玉ゴシップ
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「…誰だ…」
ふいにソファーの影から低い声が聞こえた。
「あっ!だ、大丈夫ですか?!」
僕は足元に注意しながらも急いでソファーに駆け寄った。人影がむっくりと床から起き上がった。
「……何が?」
ボリボリと頭を掻きながら人影はこちらに顔を向けた。無精髭が生え、頭はボサボサ、しかし、肌着から覗く身体つきはまるでスポーツマンのように鍛え上げられている、二十代後半の男性だ。その姿を見て、とりあえずホッと胸を撫で下ろした。心配してたみたいにお年寄りが倒れていたのではなかった。いや、倒れていたことには違いがないが、想像と違ってお年寄りではないことに安心した。だけど、床の男に睨み続けられ、はっと気が付いた。
「すいません!勝手に上がり込んでしまって…。あの、き、近所に住む三崎と申します。あの…、こちら引っ越して来たてだということで、その…、ゴミ出しについてとかのご説明に…」
「……ゴミは出したことはない…」
なるほど。この有様は、確かにゴミなんか出したことがないかもしれない。
「いつの間に床で寝てたんだ…。ソファーで寝てたつもりなのに…」
男はもっさりと立ち上がり、ソファーにどかっと座り直した。トランクスと白いTシャツだけの姿で、ぐでっと背凭れに寄り掛かった。
「おい、水」
男に言われて、素直にリビングの奥にあるキッチンへと向かってしまった。僕から受け取ったグラスの水を飲み干し、男は少し目が覚めてきたようだ。
「お前、どうやってここに入った?」
聞かれて、
「鍵が掛かっていなかったもので。すいません!えっと…佐和さん…ですよね?」
表札の名前を思い出した。
「ああ。…ったく。高い金払っても意味がない…」
と言ったのは家のセキュリティのことだろう。僕は無意識に床のゴミを拾い始めていた。
「うちでも防犯の入ってますけど、ちゃんと鍵を掛けたりスイッチを入れたりしないと意味がないですよ。面倒でもそうしないと普段の出入りでいちいち警報なっちゃうことになりますからね。ああ、もう…。こんなに素敵な家なのに、こんなに散らかして…」
部屋を片付け始めた僕を佐和さんは黙って見ていた。しばらくして、
「幾らだ?」
と聞いてきた。
「はい?」
僕は手を止めた。その目の前に、ヒラヒラと何かが降ってきた。薄暗がりの中で拾い上げると、数枚の万札だった。