*BL Original novel・3*
□初恋カクテル
2ページ/5ページ
*
待ち合わせ場所に指定されていた古いバーに、約束の時間よりも早く入った。ここに来るまでの間に宮元には色々と説明をしたけれど、渋い顔をして数度頷いただけで、相変わらず眠そうな顔をしている。大丈夫だろうか?
宮元と並び、カウンターの席につく。こんな場所で飲み慣れていない俺は、ギクシャクとして座る。
「宮元、何飲む?あ、もちろん、ここは俺のおごりだから…」
なんて言いながらメニューに手を伸ばすと、
「すいません。俺には水割りと、こっちには…ビールで」
宮元はサラリと注文を済ませ、俺に向かってフッ、と目を細めた。そして小声で、
「バーカ。みっともねえから領収書切るなよ。こういうとこはな、オーダーした人間が払うもんなんだ」
店内の薄暗い雰囲気の中で見るせいだろうか、宮元が色男に見えた…。すぐに目の前に注文した酒が出された。宮元がグラスを掲げるから、俺も慌ててビールのジョッキを持ち上げた。
「今日も一日お疲れさん」
宮元は微笑むながら俺のジョッキにグラスをコツンとぶつけた。
「んで?俺はお前の恋人役だっけか?」
俺は神妙な顔をして頷いた。
「あ、ああ。今日、ここで待ち合わせしている奴に、俺は…『もうつきまとうな』ってはっきり言うんで…。宮元、お前は…、あ、まあ、そこで黙って飲んでいてくれればいいから。そいつが、その…、しつこく来たらさ…、そのときは…一発脅してやってくれれば…」
「ぶちのめすのか?」
「バ、馬鹿!そ!そんなことはしなくていいから!紳士的に、その…お前の演技力で…」
「冗談だ。お前なんかのために命張ってたまるか」
「あ、まあ、そういうことで…」
何がおかしいのか、宮元はクッククと喉の奥で笑う。
「神崎、お前も…テンパると結構可愛いのな」
ニヤリと笑われて、その笑顔にドキリとした自分を隠すために、下がっていないメガネの位置を指で直した。
*
ほどほどにしておこうと思っていた人待ち酒は、ついつい、二杯三杯とすすんでしまった。愚痴をぶつけたい人間が、横で素直に話を聞いているという滅多にないチャンスに恵まれたんだから仕方がない。
「マリみたいなのだったらわかる気もするけどさ…。いや、ほら、男から見てだよ?まあ、マリは可愛いよな」
「…まあな」
「俺とかは…その…、そういうのとは無縁だろうと思っているんだが…」
「…ふうん…」
「いや、俺もこの業界、男同士のそんなジャンルが存在しているから、慣れちゃってるって言えば慣れちゃってるけどさ。だからびっくりしたり変な偏見持ったりとかはないけどさ」
「…あっそー…」
そんな時だ。
「隣、いいですか?」
やけに紳士な声が頭の上から聞こえてきた。顔を上げると、今日の待ち合わせの相手、大沢だ。営業用のスーツ姿は見慣れていたが、今夜はいつもにも増して気合が入っている…ように見えるくらいに…ピシッとしている。
「あ、あ…、お、大沢…」
なぜだか椅子から腰を浮かしかけてしまった俺の横で、冷静な声がかけられる。
「流一(りゅういち)、知り合いか?」
わざわざ俺の下の名前を出してきた。宮元は恋人モードに唐突に突入開始していた。さすが…プロだ。