*BL Original novel・3*
□初恋カクテル
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しばらくの沈黙の後、また両側の二人が酒を飲みながら会話を始めた。
「こいつはさ、昔から、頑固で思い込みが激しくってさあ。どうにかして誤解を解こうとしているうちに、運命のいたずらで海外に飛ばされちゃってさ」
「なるほど…」
「ま!そりゃ!初恋に破れたあとにはそれなりに遊んじゃったりしちゃったかもしれないけど」
「…だよな…」
「だけどまたこうして、最愛の人が手の届くところに現れてくれたとしたら…」
「………」
大沢と宮元が無言で見つめ合う。
宮元の親指がグッと立てられた。
「ガンバレ、としか言いようが無いな」
「あんたとは気が合いそうだ」
大沢も親指を立てて返事を返した。
宮元はグラスの中に残っていたウィスキーを飲み干すと、静かに席から立ち上がった。
「お、おい!宮元、どこへ…?」
「もういいだろう?仕事は果たした。先に帰るわ」
「そんなっ!」
俺も慌てて立ち上がろうとするけれど、カウンターの上で俺の手が大沢の手に覆われて握られて動かせなかった。
「俺は、うちの大事なマネージャーがどんな奴に引っ掛かったか心配で見に来ただけなんだよ。…まあ、こいつなら大丈夫そうだ」
「お眼鏡にかなったみたいで」
何か通じ合うものでも合ったのだろうか?また大沢と宮元が目と目で頷き合う。
「じゃ、お邪魔虫は消えるかな」
「宮元…」
宮元に消えてほしくないと思ったのは初めてだ。
「悪いな。マリからメールが入ってる。仕事が終わったみたいだ」
宮元がズボンのポケットから財布を出そうとするのを大沢が止めた。
「ここは俺が。宮元さんのお陰で、神崎が逃げ出さずにここで俺を待っていてくれました。助かりました」
大沢はペコリと頭まで下げた。
「そ。悪いな、ごっそさん。じゃ!」
スキップでもしそうな勢いで宮元は店を飛び出して行った。
残された俺達は…。
「…ふう。実はドッキリしてた…」
なんて、大沢が笑った。
「今の、宮元さん?いい男じゃん。神崎の好みじゃねえ?」
「はああ?!」
ありえん!
「どことなく俺に似てたしさ」
それは…。
脳内のお気楽さが…。
「ま、いいや。さ!神崎君、も少し飲もう」
大沢は、俺のためになにやら横文字の飲物を注文した。そして、
「二人の初恋成就に乾杯」
なんて…。
顔から火の出るような言葉を真顔で言った。
このカクテルの名前は──First Love──
飲んでる時に言うな!
俺はその後盛大にむせた。
(おしまい)