*BL Original novel・2*
□ビブラート
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A
荷物を取りに戻るという住吉と別れ、また一人歩き出した。
夜道では、裸足で歩いていることなんか、別に誰も目にとめない。
ポケットの中に手を入れると、小さな紙切れに触れた。
台本と鉛筆を持ったままだった、と苦笑いしたあいつが寄こしたやつだ。
台本を破り、自分の携帯番号を書いて渡してきた。
財布も携帯も、全部稽古場に置いて来てしまったから、こいつには後で電話しなくちゃならないだろうな。
足の裏がじんじんし始めた頃、どうにか家に辿り着いた。
まだ親は起きているのか、リビングには明りがついている。何か聞かれる前に、爪先で廊下を歩いて風呂場に向かった。ついでに家電の子機を手に取った。
繋がらなかった電話に苛立ち、子機を放り投げてシャワーを浴び始めた。
するとタイミング悪く折り返しのように電話がかかってきた。
だから、気が利かないやつは嫌なんだ。
「悠也さん!帰ってきてたの?」
なんて、親からも声がかかってしまう。
「あ、うん。電話、僕の用事だから」
くすっと電話の向こうの声が笑った気がして、さらにむかついた。
「なんだよ」
「なんだよって。かけて来たのそっちだろ?家に着いたんだ?」
顔が見えない分、こいつの声は真面目そうに聞こえるから性質が悪い。普段はあんなにヘラヘラしてるのに。
応えない僕に、あいつは明るい楽しげな声で捲し立てる。
「お前の荷物さ。俺が預かってるから。明日の稽古のときでいい?そんとき持ってくよ。家、近いみたいだから大丈夫だよな?…財布とか入ってたみたいだけど…って、中身勝手に見て悪かったな。大事なもん入ってたらいけねえって思って…」
明日もこいつの顔を見なくちゃいけないのか…。
いらつきついでに、
「木月には会えたのか?」
嫌みのつもりで言ったのに、
「ああ。今一緒に居る」
なんて、嬉しそうな声で言うから…。
電話を切った。