*学園*

□風をつかまえて
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A

運動だけが出来ればいい、なんて感じで入って来た奴らばかりのこの学校は、授業なども適当にぐだぐだで、俺も眠くなったらそそくさと寝ることにしている。窓際の席はぽかぽかといい具合に日差しが当たる……。
あくびを一つして、机に突っ伏した。
しばらくして…、ゴツッ、と後頭部からの打撃に目を覚ました。薄目を開けて頭上を見上げた。

「せめて教科書くらいは机に出して欲しいな。新田君」

部活の副顧問の橘川先生は、俺のクラスの英語の担当にもなっていた。

「いってぇ…」

橘川先生は手に持っている教科書の背表紙の尻の部分で俺の頭を叩いたらしい。わざわざ一番痛そうなところで叩くところが、こいつはもしかして性悪か?とも思うが…。
ちょっと大げさに顔をしかめた俺の顔を、慌てた風に覗き込んできた。

「大丈夫?」

なんて、気の弱そうな声を先生がかけちゃ駄目だろ。他の生徒に舐められちまうぞ。
俺の心配をよそに、橘川先生は俺の頭を髪の毛をぐしゃぐしゃにするように撫でて来た。

「はい、もう大丈夫」

「あー!橘川先生贔屓だー!」

ざわついた教室内を思わず見回してしまった。
なんでみんな席に座ってお行儀よく前を向いてんだよ。地味に寝てた俺が怒られたわけがわかった。

「新田君はうちのエースだしねえ。でも!頭は叩いても大丈夫だったみたいだしね?」

橘川先生が笑いながら教壇に戻る。

「新田は走るしか能がねえから全然平気じゃねえ?!」

ぎゃははと不快な笑いがおこる。
ほざいてろ。
しかし、教室のやつらの様子を見ると、橘川先生は結構、まあ、上手くこいつらの注目を浴びて、まともに授業出来そうな感じだ。
軟弱な雰囲気に多少は心配していたが、少しは安心だなとか、俺が先生を心配してどうするよ。
なんて、安心しつつも、生徒に囃したてられ、楽しそうに授業をする橘川先生の態度は少し気に入らなくもある。
なんだかな…、俺。
そんなことを考えつつ、目が覚めたまま授業を終えた。
その点だけは、教師として褒めてやろう…なんてな。



   *


昼休みに入り、俺はいつものように購買部で菓子パンを5個ばかり買って、ほくほくと中庭のベンチで齧り付いていた。
そこに、橘川先生が通りかかった。中庭を横切る渡り廊下から俺を見つけた。

「新田君!」

なんでか怒る口調で呼ばれ、驚いて口の中のパンを喉に詰まらせるところだった。

「うぐ。んあ?な、なんだよ」

「それ、お昼?」

「あ、まあ…」

菓子パンの入っていたビニール袋をポケットに押し込みながら答えた。
橘川先生は上履きのまま中庭に降りてきた。

「これとそれ、交換しよう」

手にしていた小さな布でくるまれた包みを俺の手に渡す。そして、俺の手から最後にとっておいたとっておきの焼きそばパンを奪っていきやがった。

「ためだぞ。スポーツするなら食事にも気を使わないと」

そう言いながら、俺の隣に腰を降ろした。

「なんだよ、これ」

俺もその横にもう一度座りながら、膝の上の包みを戸惑いながらも開き始めた。

「俺の弁当。明日からは新田君のも作ってくるよ。あ、美味しね、このパン」

だろうな。俺のとっておきだった焼きそばパンだ。腹が減っていた俺は、遠慮なく弁当に食らいついた。……美味い。どう見ても手作り弁当だな…とか、深く考えないうちに、とにかくカッ込んだ。
考えてしまうと、尻が浮くように恥ずかしくなる。

「じゃあ、また放課後!」

空になりかけた弁当箱を持ったまま、先生に手を振り返した。
てか、手なんか振ってる俺の姿見られてないよな?なんて、その時になって慌てて周りを見渡したりした。
その前に、弁当を一緒に食べてたところが誰かに見られていたらしく、あとで冷やかされてしまった…。
油断したわ…。
ただのお節介な世話焼き副顧問だってだけだってーのにさ。



   *


次の日、事もあろうに朝練の終わったグラウンドの隅で、俺に約束通りの弁当を渡してくれようとするので、やっぱり周りの目を気にして止めてくれと突き返した。
教室に戻ろうとした靴箱に、さっきの弁当箱が詰め込まれていたのにはさすがに苦笑いした。
仕方なく受け取って、有り難く頂く。

別に、俺を贔屓しているわけじゃないよな。部員のケアのつもりでやってるんだよな…と思おうとしても変な気になりかける。
変な気って…なんだ?
……なんだよ…もう…。
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