BASARA 佐幸佐ss 3

□夜の鴉に抱かれて
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ここは、とある歓楽街にある『しのびバーSASUKE』という名の一軒のバー。
戦化粧と迷彩ポンチョ姿が印象的なオカマ・SASUKEママのお店には、日頃のうっぷんを聞いてもらおうと、“会社”と言う名の戦場に疲れ果てた“サラリーマン”という名の侍たちが、夜な夜な足を運ぶ…。








「ふああ…。あら、いらっしゃい。って、真田の旦那じゃないのお。ちょっとお、最近ご無沙汰じゃない。どこで浮気してたのかしら!」

5.6席ほどのカウンター席の、薄暗く寂れた店の中で、佐助は漸く訪れた客に向かってあくびを噛み殺し、笑顔を作った。

「仕事が忙しかったのだ。そんなことより喉が渇いたぞ」

この店の常連、真田幸村は、いつもの席に座りネクタイを緩め始めた。
いかがわしい気なこんな店には不釣り合いな、爽やかで真面目そうな若者だ。
なぜこんなイイ子がこんなチンケな店に…、と、最初はいぶかしがっていた佐助ママだが、自分を偏見なく真っ直ぐ見詰めてくる熱い視線に、なぜ?なんてどうでもよくなっていた。
そう……。
いつの間にか、自分も熱い視線を投げ返していたから…。
忘れていた胸の奥の何かを…思い出させるような瞳だった…。

「はい、どうぞ」

佐助が幸村にグラスを差し出した。
幸村が手を伸ばし…、佐助の手に、自分の掌を重ねた。

「佐助ママ」

幸村の視線がいつも以上に熱い。
何年もこの商売をやってきている自分なのに…、そんな目で見詰められると少女のようにドキドキしてしまう…、なんて、佐助は潤んだ目で幸村を見詰め返した。

無粋な電話のベルが鳴り、佐助は舌打ちしながら幸村の手をそっと外し、幸村に背を向けた。

「あらー!なあに?まあ!うふふ。久々に顔見せなさいよお。やだ!新鮮なお野菜のお土産が目当てじゃないわよお、もう。そうね、お葱が嬉しいかしら?なんて!あはは……」

幸村はつまらなそうにグラスを傾けた。
今日こそは口に出そうと思っていたことがある。モヤモヤしたこの想いを抱えたままでは、仕事もミス連発で叱られまくりなのだ。

「ごめんなさいねー」

佐助が電話を終え、幸村に向き合った。自分の水割りも手際よく作り始める。

「佐助ママの友達か?」

佐助は伸び放題の髪が顔にかかるのを指先で耳に掛けた。

「違うわよ。昔の馴染み客」

「……それにしては、仲が良さそうであったな」

幸村が不機嫌な声を出すのに、少し驚いた。
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