BASARA 佐幸佐 SS

□そっと月夜に。
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「幼い時分は楽しかったなあ」
充分に幼さを残す主がそう言った。
「昔は、もっと佐助は優しかったぞ」
これ以上、どう優しくしろと?
ふふっと、小さく笑った旦那が俺を見詰める。
「さーすけ」
「はい、はい」
「歳を取ったら、今の言葉をまた言うのかな?」
「ん?」
「今、この時の、あの夜に戻りたいな、…て」
「…是非、言ってくださいな…」
だから、俺様は、一秒一時だって気を抜けない。
旦那の記憶に残る俺は、すべて俺で居たい。
旦那のための、俺で居たい。


「昔話は不吉かな?」
「俺しか聞いてないならいいんじゃない?」

旦那が肩にもたれかかる。
「某は昔から無茶ばかり言って佐助を困らせた」
「へえ。自覚あるんだ」
こつんと小突いてやれば、目を細める。

「池に映った月が欲しいと言った」
「違うね。月が食べたいと言ったんだよ」

駄々をこねて困らせて。
足を滑らせ二人してずぶ濡れに。
思い出話は尽きることがない。

「戻りたい?」
ふっと見えた表情の陰りに訊ねてみた。
「いや…」
旦那は微笑む。
「戻ったら、今までの佐助との思い出が消えるだろう?…某たちは、多くを積み重ねてきたからな」
どの記憶も、すべてが今の俺たちを作り上げてきた。
そうだね。

「走馬灯は佐助で埋まるな、きっと」
「お互い様でしょ」

だけど、やはり、俺は心の底では思う。

時よ。
止まれ。

呪われてでも、願わずにはいられない。



儚き時代の儚き恋人たちの夜。



〜おしまい〜


RADWIMPSの夢見月…って曲が好きで、思わず書いた。

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