BASARA 佐幸佐 SS

□はじめまして。
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俺は、教え込まれた礼儀作法通り、両膝を揃えて畳に頭を擦りつけた。
「佐助と申します。以後お見知り置きを」
名前なんて名乗ったって、どうせ意味なんかないんだろうけど、作法だから仕方がない。
ただの忍びなんか、お武家さまは覚えるはずもない。
「猿飛だな!待っていたぞ!」
幼い声が頭の上からする。
よりによって、その猿飛佐助が、こんな小さな子供の世話に回されるとは。
真田の大将さんはかなりの親ばかだとは聞いていたけどね。
「弁は、父上や兄上からお主の話をいっぱい聞かされてる」
へえ。
「すごい強いのだってな、猿飛は!」
まあ、ねえ。
「弁も強いぞ。勝負しような」
あー、はいはい。
舌足らずなその声がかけられるたびに気が重くなる。
ほんっと。こんな子供の世話するんですか…。
「顔を上げぬか、猿飛!」
え、あ。ちょい待ってね。
苦り切った顔をちょいよそいきに作らなきゃなんで。
「さると!ごふっ!!」
ごっつん!
後頭部に衝撃が走った。
「痛っ…。って、うわ…!」
俺の頭は主の顔面を直撃した!
主が手で顔を覆う。
「も、申し訳ありません!」
再び頭を下げれば、ポタリッと目の先に、赤い滴が落ちてきた。
恐る恐る視線を上げれば、主の手の隙間から、ぽたりぽたりと来てる。
「うーーー」
顔を真っ赤にして、目を見開いて俺を見てる。
「鼻血!大丈夫ですか?!あ、えっと、拭うものを…」
「大丈夫だ!!」
顔から手を放すものだから、だらりと鼻からこぼれる。
俺は慌てて、主の小さな鼻を摘まんだ。
「これしきなんともない!」
鼻をつままれた変な鼻声で、なぜかぐんっ!と胸を張る。
俺は空いた手で胸元の手拭いを探る。
「某、これくらいでは泣かないのだ。強いだろう、佐助の主は!!」

さすがに…。
これには…。

「ぷっ!」

噴き出さずにはいられなかった。

「ほら、これ、鼻に詰めて。さ、手も拭こう」

真っ赤な顔でにっこり笑う主の姿に、心底、笑いたくなって、心底、ほっとけなくなって…。
俺は落とされたらしい。


〜おしまい〜

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