*BL Original novel・1*
□優しい傷B
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やがて、走り出す車は、打ち付ける雨の激しさで、窓からは何も見えない。
後部座席で膝を抱えて座っている僕は、顔を膝に埋め込んだ。
千堂さんは無言でフロントガラスだけを見詰めている。
痛む唇に手を押し当てた。
暗い車内には沈黙が流れ続ける。
車はスピードを上げ、やがて、ゆっくりと止まった。
窓から見える景色はまだ真っ暗だ。
僕を残したまま、千堂さんは車から降りた。
外の様子に目を凝らす。
あ、ここは……。
暗闇の中に明かりの付いていない建物が見えた。
駐在所?
僕の横のドアが開かれた。
「すまない。降りてもらえるかな?」
降りしきる雨の中、道に降り立つ。
「濡れるから!早く中へ!」
ガラス戸が引かれ、僕は事務所の中へ飛び込んだ。
千堂さんはさらに奥へと消えていく。
真っ暗なそこでも、カチカチッとスイッチを入れる音がした。
「ここもダメか」
外の赤い電気も付いていなかった。
「さて、またここに戻ってきちゃったね」
またぼろぼろな姿で来ちゃいました。
うなだれる僕に少し距離をとった場所から声がかけられる。
……というよりも、独り言のような台詞になってる。
「言っちゃおうかな……。あのね、俺は、結構昔は血の気が多くってさ……」
ことっと机に手を付く音がする。
何を言い出すんだろう?