*BL Original novel・1*
□優しい手
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駅の改札を抜けると、一台のパトカーが駅前広場に止まっていた。
運転席側のドアに寄りかかって立っていたお巡りさんが、僕を見付けて、軽く手を上げた。
「千堂さん!」
リュックを肩に抱え直し、僕は思い切り駈け出した。
「元気そうだね」
そう言って、優しく笑うその笑顔に、急に鼻の奥がツンとした。
会いたかった…。
僕の肩からひょいっとリュックを取り上げると、運転席のドアを開け、後部座席にぽんと放り投げた。そこから乗りこんで腕を伸ばし、助手席のドアを開けた。
「どうぞ」
「え。いいんですか?」
「他のパトカーとすれ違ったら隠れればオーケー」
「ええ…」
あはは、と笑う千堂さんは、ほんっと、相変わらずの千堂さんで。
会えなかった数ヶ月が、ウソみたいに消え去った。
「お邪魔します…」
助手席に緊張しながら乗り込んだ。
何か、凄いな。パトカーの中は!
無線だ機械だいっぱいあって…。
「珍しい?」
キョロキョロしてる僕に、目を細めて千堂さんが言った。
「あ、はい!何か、タクシーの凄い版みたいな!」
ぷっ、と千堂さんが吹き出す。
「お客さん、どちらまで?」
そんなことまで言ってくる。
「駐在所までお願いします!」
「了解!」
ブロロロ…とエンジンがかかる。
「お客さん、すいません。一応パトカーなんで、シートベルトしてもらっていいですか?」
あ。
慌てて肩の上を探そうとしたら、千堂さんの手が先に伸びた。
体越しに、窓近くにあるシートベルトを引っ張ろうとして…。
僕の肩をその手が掴んだ。
「和喜…」
夏に触れたときよりも、硬い制服に、僕も触れた。
そっと近付いてくる熱い息に、ゆっくりと目を閉じた。
…この穏やかな場所に、戻ってこれた。