*BL Original novel・1*

□優しい鎖
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「せんせー!お巡りさんが来たよー!」

校庭を走り回っていた子供たちが、開かれていた窓から身を乗り出してきて教えてくれた。
揺れるカーテンの隙間から、職員玄関の前に停まる一台のパトカーが見えた。

「もう…。大丈夫だって言ったのに」

机の上に広げていた書類と地図を揃えてカバンにしまい込むと、

「じゃ、行ってきます!」

と、職員室にまだ残っている先生たちに声をかけた。

「大丈夫?」

なんて、先生たちまで僕に心配そうな声をかけるけど、

「家庭訪問で迷子になんかなったりしませんから。いざとなったら、ここのお巡りさんに助けを求めますし」

と言ったら、みんな笑顔で送り出してくれた。

   *


この春から、晴れて教師になった僕は、この山奥の小学校に新任で採用された。
一学年十人ほどの小さな小学校。
僕の大好きな人が守るこの場所で、僕も守るべき場所を得た。



   *


コンコンっとパトカーの窓をノックすると、スーッと窓が開いた。
中のお巡りさんは、ふって目を細めて、笑いかけてくれる。

優しい笑顔の…優しい優しい…僕のお巡りさんだ。

「歩いて回りますから…」

昨日の夜、今日の家庭訪問のことを千堂さんに話したら、パトカーで巡回してやろうか?とか言い出され慌てて断った。
パトロールついでだとか言われても、実際、子供たちも歩いて学校に通って来ているわけだし、先生がそんな楽しては示しがつかないじゃないですか。

「わかってるよ。がんばって。…でね、これから署に行かなきゃなんなくなったから。帰りちょっと遅くなりそうだからね。ほら、これ」

チャリンと僕の手の平に、鍵がひとつ落とされた。

「今夜は泊れるんだろ?」

「あ、うん」

鍵を握り締めて、ちょっと恥ずかしくなって、へへっと笑う僕の頭を窓から伸ばした手が、ぽんぽんと叩いた。

「じゃ、頑張ってね、和喜先生。迷子になったら電話して」

もう!
心配性のお巡りさんめ。

手を振り、パトカーが走り去るのを見送ってたら、子供たちがまとわりついてきた。

「先生!お巡りさんに頭撫でられてた!」

ぎく。

「撫でられてませんー。叩かれてたんですー。しくしく」

泣き真似をすると子供たちがわいわい騒いで面白がってくる。

「先生なんか悪いことしたのか?!」
「お巡りさんは先生捕まえに来たのか!」


んー。
そうだね。
先生は、みんなに会うずっと前に、ここのお巡りさんに捕まってしまっているのです。
なんて…。

「よし!最初は勇人くんちだよね?案内してくれるかなー?」

「うん!先生こっちー!!」

子供たちに合わせて走り出す。
こらこら。
先生置いて行かないでね。迷子になっちゃうから。
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