*BL Original novel・1*
□口下手
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言葉が足りないと自覚している。
口が商売の仕事してんだから、さぞかしお上手におしゃべりできるんでしょうね、とか、アホかと思う。
なんて…
真っ暗なリビングのソファーで丸くなって眠っているこいつを見て、自己嫌悪に陥った。
ソファーの下の床に、端が留められただけの紙切れが束になって落ちていた。
読みながら寝てしまったのか…それとも…泣きながら寝てしまったのか…
うっすらと涙の跡が残る頬を撫でたら、狭いソファーの上で寝返りをうって、背中を向けられた。
「……なあ、マリ…」
マリの頭をそっと撫でた。
「…風邪ひくぞ…」
こんな年下のやつに、素直に謝るなんて出来ないから、…って、こういう態度が怒らせるんだろうな。
はあ…。
だからって言えるか?!
俺にはお前だけだなんて、言えるか?!
台詞じみた愛の言葉なんて囁けるか?!
と、とりあえず…
ゆっくりとマリの耳元に顔を寄せた。
何て言おう?
「…悪かった…な」
「…酒臭い」
向こうを向いたままのマリが悪態をついた。
起きてたのかよ。
「…今夜は帰らないんじゃなかったんですか?」
「誰かさんが俺の帰りを待って、ソファーで泣きながら寝てるんじゃないかと思って、無理して帰ってきましたが、何か?」
ますますマリが身体を丸めた。
「…お酒と…香水臭い…」
思わず自分のシャツの匂いを嗅いだ。
「もっと遊んで来ればよかったのに」
「何だ?マリは俺の女房気取りか?」
言ってしまって、しまった!と思ったが、クッションをぶん投げられた。
顔面に命中する。
「ってえなあ。あのなあ。大人には大人の付き合いってもんがだなあ?今夜は高岡の奴が無理矢理、お姉ちゃんの居るお店にだなあ…」
顔をしかめながらも必死に言い訳する自分に内心情けなさを感じるが。
マリが身体を起こして、俺を睨みつけてきた。
「別に!そういうのは自由だから!だけど…だけど、宮元さん!電話で何て言った?!覚えてる?!」
遊んでくる。って言いました…。
「てっきり僕は、誰かさん大人なんだし!で、遊んできたんですか?」
バカだなあ…俺にはお前しか…なんて台詞が頭に浮かぶが、口からは出てこない。
「マリ…」
その代わり、身体が動いた。マリの両腕を掴み、どさりとソファーに押し倒した。
「酒臭いって言ってるでしょー!」
「うるせー!!」
もがく体の上に圧し掛かり、うるさい口を唇で塞いだ。