*BL Original novel・5*

□犬とネズミと猫
1ページ/3ページ

塾が終わった午後十時。
俺は、いつもの様に繁華街に繰り出した。
さあて!今夜も一杯飲んでから帰るか!
酔っぱらいを避けながら、ネオンに照らされ道を急ぐ。そして、お目当てのBARの看板が光ってるのを確認した時、

「あれ、キスちゃん…だよね?」

不意に、 俺に声が掛けられた。
BARがある地下へと続く階段の入り口で、俺の目の前に現れたのは、ええと…。誰だったっけ?チームにこんな人いたっけ?

「ども…。」

警戒しながら、曖昧に挨拶したら、そいつの後ろから鮫島さんが現れた。そして、助け舟を出してくれた。

「おい、なんでキスを知ってる?今、初対面じゃないのか? 」

男は、大きな身体で爽やかに笑って言った。

「ああ、そうか!こっちが一方的に知ってたんだ。情報通なもんで。気にしないでー」

変な奴、って思ったけど、ニコニコしてる笑顔は悪い奴じゃなさそうだ。何より、鮫島さんと一緒に居るんだから、危ないやつじゃ無いだろう。

「ボスはもう飲んでる? 」

地下への階段を降りながら続いて降りてくる鮫島さんに聞いた。

「ボスは野暮用を済ましたら来るそうだ。それまで、お前のお守りを任された。いい子で待ってろ」

「ちえー、ボスまだ居ないのかー」

俺は、通いなれたBARの、重い木の扉を開けた。一応、店の中をキョロキョロしてみるけど、やっぱりボスの姿は無い。

「いらっしゃい 」

マスターが声をかけてくれた。

「奥のテーブル席、用意してありますよ。どうぞ」

マスターが店の奥のボックス席を指し示す。
この頃、ボスは、カウンター席じゃなくて、こっちのソファーに座りたがる。それは、その…、イチャイチャしたいからで…。恥ずかしいな!もう!
ちょこんとソファーに腰掛けた俺の両脇に、鮫島さん達が座った。

「あ、俺、朝井って云います。以後お見知りおきを、二代目 」

「岩井喜守(よしもり)です。その…二代目は…やめてくれよ」

とは言いながら、ちょっと威厳が出るように、ボスの真似して深く座って足を組んでみたりした。

「喜守で、キスくんかあ。可愛いね。やっぱりボスに似てるね。あっ!ボスが可愛いって意味じゃないよ?」

「なんだよそれー!」

そんな冗談を言い合っていたら、俺は朝井さんにあっという間に懐いた。元々、人見知りするほうじゃない。

「…ちょっと失礼」

俺達のやりとりに溜息を吐いてから、鮫島さんは電話に出ながら席を外した。するとすかさず、朝井さんは、俺にちょっと寄って、小声で言ってきた。

「ねえ、キスくん、一緒にNランドに行かない? 」

突然そんなことを言われて、目をパチクリさせてしまった。

「え!そ、そりゃあ行きたいけど…」

新手の誘拐の誘いだろうかと警戒してしまう。そういう警戒心は、ボスから教わった。

「いやあ、あのね…」

朝井さんは、フフッと企み含み笑みを浮かべて言った。

「あのね、キスくんが来れば、当然護衛も来るだろ?俺、その護衛が目当てなんだけど、協力してくれないかな?こんなこと、頼んでごめんね。男同士の、友情ってやつで、ひとつ」

朝井さんは、ちらりと鮫島さんが去って行った方を見た。……なるほど。俺は察しがいいからな!すぐに理解した。恋の頼みじゃ仕方ねえなあ!

「…でも、俺、行ってみたかったんだよねえ、Nランド。その…、そっちはそっちで楽しんでもらって、俺、勝手に遊んじゃってもいいかな?…小さい頃から育ての親は忙しかったし、ホントの親はあの通りだから…、連れて行って貰ったこと無くて…」

俺の言葉に、朝井さんは目を細めた。

「キスくん、彼女と行ったりしないの?」

「いねえし!」

なんて朝井さんと話していると、ギーッと扉が開く重い音がした。目を向けると、ボスが店に入ってきたところだった。ダークのスーツを着込み、磨かれた革靴がコツコツと音を立てる。今夜もカッコイイなあ!ボスは!ボスに続いて鮫島さんも戻ってきた。
ボスに見とれている俺を無視して、ボスは、いきなり顔をしかめて言った。

「あん?なんだか、今夜はここは、犬くせえなあ! 」

ボスは、鋭い目つきを俺達の座るソファーに向けてきた。 その視線は、真っ直ぐに朝井さんを睨みつけている。朝井さんは、そんなボスの視線に怯えずに、俺の耳元に口を寄せて囁いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ