*学園*

□僕のベビーフェイス
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(会計:溝内 視点)


生徒会執行室から廊下へ出た途端、はあ、と大きな溜息をついてしまった。
ドアの向かいの壁には、来年度生徒募集の麗しのポスターが貼ってあるのだ。
なんでこんなところに僕の夢にまで見る愛しの君が映っているのか…。
担当の持田に聞いても、「芸能プロダクションかのモデルさんです」とか適当なこと言うし。
だいたい!会計の僕にそんな予算の申請来てないし!
こんな綺麗な顔の子が、僕の恋人だったらなと思う。
僕は結構容姿に自信があるし、こういう子だったら、僕にお似合いだと思うんだ…。
人はナルシストのメンクイって言うけど、その通りだし…。
でも、もう、夢見ることはあきらめて、僕にお似合い程度の可愛い子でも探そうかなとか思い始めたこの頃…。
だって…こんなイケメンが独り寂しく溜息ばかりついてちゃいけないでしょ…。

と。

そうは思っていたけど、昇降口で僕を待ち伏せしていたらしい1年の子が、僕に思い切ったように声をかけてきたのには、少し困ってしまった。

ちっちゃくて、制服もサイズが合っていなくてダボダボ気味で、手入れされていない黒髪はぼさぼさで。そばかすだらけの顔を真っ赤にさせて、

「み、み、み、溝内先輩!」

って、半泣き見たいな叫び声で声をかけてきた。

「なあに?」

笑顔を向けると、どこまで赤くなるんだろうって顔をぽっぽっぽっぽさせてる。

「あ、あ、あの!い、い、今、お、お、お時間…あ、あ…」

面倒くさいな、と思ったけど、何だろう…。
そのぼさぼさの黒髪に、少し胸がキュッてなったんだ。
なぜだか全然わからない。
初恋を思い出したような、そんな感覚で…。

「いいよ。何か用でもあるのかな?」

黒髪の子は、ブレザーのポケットからごそごそと何かを取り出し、僕に突きつけてきた。
白い封筒…。
その手から封筒を受け取り(指先がちょっと触れただけで、その子は、飛び上がりそうになって手を引っ込めた)、逃げ出しそうにするので、

「待って。ここで読むから」

と言ったら、僕にちっちゃい背を向けたまま、直立不動になった。

封筒の表は(溝内先輩へ)。
裏には(1−B 新田朋)。
封筒から中の手紙を取り出し、広げた。

「好きです。お付き合いして下さい」

と、書いてあった。

「う、う、うわあああ!!」

新田朋くん?が変な声を上げながら僕に飛びかかってきた。
いきなり僕の胸をどんどん叩く。

「な、なんで声に出して読むんですか!!は、は、恥ずかしいじゃないですか!!!」

あ…。いけね…。

「ごめん…」

ゆでダコみたいな新田くんの攻撃が止んだ。

「う、うわああ!も、申し訳ありません!」

大騒ぎの新田くんに、くすっと笑ってしまった。

「あは。あの、新田くん?でいいのかな?僕は君のことあまり知らないんだけど…。どうして僕を選んでくれたのかな?」

「そ、それは…」

ゆでダコ新田くんがもじもじとしながらどうにか喋り出す。

「せ、生徒会のステージとかで、溝内先輩すっごい…その…かっこいいし…僕…いつも先輩見てドキドキしてて…」

そうだろう、そうだろう。
わかるよ、1年。その気持ち。

「それに、僕!先輩と話したことあるんですよ!…談話室でお菓子食べてるときとかに…すごい気さくな方だなって…」

ごめん。全然覚えてないや。

僕に不釣り合いな普通な男の子。
記憶にも残らなかった男の子。
うーん…。
無理だろう。
僕のタイプじゃ全然ないもんね…。

ごめんね…と言おうとした口が勝手に、

「返事は待ってもらえる?」

とか言ってるんですけど!
自分で驚いちゃってます!

「は、はい!」

新田くんが真っ赤な顔のまま思いっきりの笑顔を見せた。
あ、八重歯。

トクッと心臓を意識して、自分の気持ちに戸惑った。
僕って寂しがり屋だったのかな?
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