真田兄弟主従SS

□腕の中で見る夢は
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「兄上、人の子を拾いました…」

幼い弟が泥だらけで抱えているそれは、擦り切れたぼろ切れのように見えた。



「兄上、佐助と名付けました…」

弟の後ろを付いて回るその姿は、従順な犬のように見えた。



「兄上、佐助がようやく笑ってくれるようになりました…」

弟の横で微笑む顔を初めてみたときに、信幸は佐助に惹きつけられた。



それが、欲しくてたまらなくなった。


たとえ、それが弟のものだとしても。





「…源…さま…、源三郎…さ…、信幸様…」

意識がゆっくりと呼び戻される。
信幸は荒い息の中、暗闇に目を覚ました。
ほのかに部屋が明るくなった。小さな灯がともされたのであろう。

「夢か…」

ちゃぷりと、傍らで水の音がした。
佐助が手桶に手ぬぐいを浸している。

「汗を拭いましょう」

「…佐助」

呼べば、長い前髪の隙間から、こちらを見詰める。

「夢を…みた…。私は何か言っていたか?」

佐助は何も言わず、首を横に振った。
信幸のはだけた胸元から、手拭いを差し入れ、ためらいがちに肩から寝着を寛がせ始めた。

「佐助」

信幸は佐助の手首を押さえた。


先程まで自分の腕の中で見せていた、淫らな表情の残り香を探す。
首筋に付いた薄い朱の痕に、ちくりと心が痛む。
痕に気が付いたときの佐助の狼狽ぶりがたやすく想像できる。
いや、先に気が付くのは源次郎か?

「信幸様、手を…」

思わず力を込めていた手を放してやると、佐助が肩で息をついたのがわかった。

「佐助、お前は、俺とこうなることなど、望んではいなかったのだろう」

佐助の口元が微かに開いた。

「言わなくていい」

そう言われて、佐助は唇をぎゅっと噛み締めた。
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