企画ss

□罠
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『佐助ぇ?砂糖はどこだ?』

電話口からは、呑気な旦那の声がする。
頭の上で捻上げられ、縛り上げられた腕は、携帯をいじることも消すことも出来ない。

「さ、砂糖はいらないだろ…」

顔をひねり、必死に絞りだす声を通話口が拾う。
くっくっくっ、といやらしい笑い声が重なって聞こえないことを祈る。
向こうからは、ガチャガチャと台所の物音が聞こえてきたから、こっちの音は、今は聞いていないはず…。

「電源切ってくれよ…」

俺が顎で携帯を向こうに押しやろうとすると、ご丁寧に、耳にぴったり当たる位置まで、そいつの細い指が戻してきた。

「終わるまではダメですよ…。フフ…」

ちくしょう!変態野郎!

『佐助…?佐助…?』

旦那…。
泣いたら変態が喜んでしまう…。







人気の消えた職員室に、こっそり忍びこんだ。
真っ暗闇の中、狙いを付けてあった机に向かう。
まるで誘うかのように、机の上に置かれていたテスト問題。赤丸で「追試用」と書かれたそれ。
手を伸ばして掴んだ瞬間、その手にひんやりしたものが触れた。
いや、冷たい手に掴まれたんだ。

「おや?…こんな罠に誰か掛かるかと楽しみにしていたら、佐助くんではないですか…」

暗闇に浮かびあがる長い白髪に、ぞわっとする。
どこに居たのやら、気配がしないところが薄気味悪い。
このテスト用紙の置かれていた机の持ち主、数学の明智だ。

「確か…あなたは追試組ではなかったはず…」

細い指なのに、俺の手を握る力が強くて振りほどけない。

「追試?何のことですか?え?あ、なんだこれ?俺は、その、忘れものを探しに…」

職員室に忘れものかい!
動揺すんな、俺様!
冷や汗が背中を流れる。

「おお!わかりましたよ!」

俺の手を離さない片手はそのままに、もう片手でを顎に当て、わざとらしく目を見開いた。

「そういえば、あなたの真田君が追試でしたね…」

俺の、とか言うな。
なんか、明智に言われるとやらしい感じだ。

「追試って何のことだよ?」

しらばっくれてもばれちゃあ、仕方がない。
だいたい!
部活が忙しすぎて、テスト勉強ができない、だの、何だのと…。教えるこっちの身になってみろよ?

「…さあて…、真田君は、追試不合格で落第ということで…」

「ま!待てよ!!旦那は関係ないだろ!俺が勝手に忍びこんだんだ!ってか!こんなとこに、問題置いとく方がいけねえだろ!」

片手が抑えられてなきゃ、飛びかかるところだ!

「…ああ!この問題用紙は…罠ですよ。あなたみたいな生徒がかかるのを楽しみにしていたのですよ…」

口の端を持ち上げて、にーっと笑う顔は、もう、教師じゃないな。

「悪趣味だ」

「ええ、悪趣味ですが、何か?」

性質が悪い。

「どうしますか?これ、見たいですか?」

俺から取り上げたプリントをひらひらと顔の前で揺らす。

「い、いらねえよ!」

ブルブルブル…。
ポケットの中の携帯が振動した。

「電話ですよ?佐助くん?」

舌打ちしながら片手で携帯を開くと、案の定、旦那からだ。

『佐助!腹が減って死にそうだ!』

旦那の呑気な叫びが響いた。
それどころじゃ…。

「今たてこんでんだ…。適当になんか食ってて…」

パタンと携帯を閉じると、ぐいっと腕が引かれた。

「さて、お仕置きの時間ですよ?」
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