BASARA 佐幸佐 SS 2
□until you kissed meA
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A
まだ夜が明けきらぬ頃、佐助は布団の中で目を覚ました。
いつも以上の睡眠をとり、勝手に目が覚めてしまった。
佐助の腕を枕に、源二郎が寝息を立てている。
暗がりの中で、そんな源二郎に目を細めると、佐助はそっと、ゆっくり、源二郎の頭の下の腕を引き抜いた。
多少身動きはしたが、再び立てた源二郎の寝息に安堵すると、そっと布団を抜け出した。
勝手に客の布団を抜け出すなど、今までしたことはない。
ましてや、勝手に部屋を抜け出すなどと…。
「…ごめんね、旦那」
佐助は、源二郎の髪をそっと撫でた。
「…だけどね…。もうね…。俺のことは忘れてね…」
掻き分けた前髪から現れた額に、そっと唇を押し当てた。
「じゃあね」
襖が開く微かな音がする。
その音が、もう一度して、襖が閉まり、人の気配の無くなった部屋で…。
源二郎は、唇を噛み締め、嗚咽を堪えた。
こんなに、人恋しくて、ましてや、人恋しさに涙するなど…、佐助に見られなくて良かったと思う…。
*
源二郎の兄が分家をし、本家を源二郎が継ぐことが決まった。
道場通いばかりもしていられず、登城の準備なども忙しくなった。
息抜きに、などと理由を付け、あの見世の前を通り、甘味処へ通ってみたりもする。
女々しい…などと、思いはするが、叶わぬ恋だったと、何度も言い聞かせてる。
恋……だったのかなあ…。
今となっては、わからない。
このまま、いつか…忘れるのかもしれないな…と思うこともある。
忘れる事が出来たなら…。
流行りの芝居の芝居小屋の側を通りかかると、人混みの中、通りかかる人が道を開ける、そんな一行に出会った。
人混みの隙間から、何となく目をやり、足が止まった。
あ…。
派手な女着物を着込み、頭には簪までさしている。
物静かな様子で連れの横を歩いて行く。
その姿は…。
佐助と…見世の客かな…と思うと、ちくりと胸が痛んだ。
ふいに、佐助がこちらを見た。
様な気がした…。
が、何も気に留めることなく、また横顔に戻ってしまった。
通りすぎていく…佐助の姿に、
「佐助!」
源二郎は堪らず声を上げてしまった。