●捧げもの●

□Lock on!
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客人が主を訪れて来た、というので小介はいそいそと茶などを(主用に茶菓子付き)運んでいた。
廊下を進んでいると、主の部屋からひょっこりと出てきた佐助に声をかけられた。

「あ、ありがとね。あらら、旦那の今日のおやつ2回目になっちゃうなあ…。あ、そうだ。それ、俺様が運んどくから、小介、悪いけど、十蔵探して連れてきてくんない?」

小介の手から、ひょいっと盆を受け取り、佐助は部屋に戻って行こうとした。

「十蔵…ですか?」

「そ。急いでね」

大事な客…かはどうかは知らないが、自分が部屋に入れてもらえずに追い返されるのに、よりによって、あの十蔵を呼べ、とはどういうことだ…。内心むっとするが、小介はにっこり、

「はい、わかりました。でも…十蔵のことですから、探すのに時間がかかるかもしれません」

その時、庭の方で「ぎゃーー」だの「うわーー」だの賑やかな騒ぎの声が上がった。

「はい。みっけ。頼んだよ、小介」

心の中で、っち、と舌打ちをするが、顔には微塵も出さずに、

「はい。すぐに」

と、やはり、にっこり笑顔で小介は応えた。





騒ぎは、庭先にある修練場…と一応は皆が呼んでいるひらけた一角で起こっていた。

「…すいません。長からの言いつけで…十蔵…」

「今日という今日はてめーら!許さねー!そこへなおれ!」

「YA−HA−!海野が怒った!怒った!」

「わー!幸村様助けてー!」

騒々しく逃げ回る十蔵と甚八をとうとうぶち切れた感じで青筋立てた海野が追いかけまわしていた。

「こほん。今日は客人が来ているのですから、少しは静かに…」

などと言ってはみるが、そんな小介の横を風を立てて走り去る3人の姿に、にこやかな表情のまま、小介のこめかみに力が入った。

「鎌之助、ちょうどいいところにいたね」

縁側に座り、面白そうに鬼ごっこを眺めていた鎌之助に小介は声をかけた。

「ん?」

「その手に持っている鎌を思い切り十蔵目がけて投げつけて欲しいな」

「んん?当てちゃっていいの?」

「ああ…、ざっくりと…」

涼しげな表情のまま黒いオーラを発したかのような小介を見なかったことにし、鎌之助は、ブルンブルンと鎌を数回振り回し、思い切り庭先へと投げつけた。
ヒュルンヒュルン音を立て、鎌は3人目がけて飛んでいく。

「ぬわ!」

「うわ!」

「ぎゃあー!」

十蔵が身を屈め、甚八が仰け反り、硬直した海野のすぐ後ろの木の幹に鎌は深々と突き刺さった。

「あー、やっと大人しくなった。ありがとう、鎌之助。十蔵!」

小介に呼ばれ、十蔵は眉を寄せた。

「小介…、お前、これ死ぬだろう…。綺麗な顔して相変わらずえげつない…」

またこいつは…。

と小介の方も眉をしかめた。といっても誰にも気がつかれないほどにだが。傍目には穏やかにニッコリ笑っているように見える。

こいつはいつも人のことをバカにする。そう聞こえる。
小介にとって、綺麗な顔…というのは、女みたいな顔、と言われているようで、あまり気分のいいものではなかった。
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