●捧げもの●
□Please tell me
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「飲み過ぎだ…ったく…」
ぐでぐでになった、今にも寝てしまいそうな身体に肩を貸し、どうにか引き摺るように歩く。
「のーんーでーまーせーんー」
そんなお決まりのセリフを吐くこの酔っぱらいを道端に放置してやろうかと思うが…。
「旦那ぁ!」
何を思ったのか往来の中でいきなり抱きついてきたりするので始末に負えない。
同僚のこの男、猿飛佐助に仕事の後飲みに誘われた。
チャラチャラして見えて、仕事はしっかりこなす。それ以上のことはやらないが、やれと言われれば、やるし出来る。そんな男。
人当たりも良く愛想もいい、見た目もいけている、が特定の恋人はいないらしい。(女子社員談)
以前、こいつと廊下でコーヒー片手に立ち話をしていたら、
「お似合いですね」
と通りすがりの女子社員がくすりと笑った。
はあ?と思う暇もなく…なぜだか猿飛の手から吹っ飛んだコーヒーを頭から浴びせられた。
まったく…よくわからない男だ。
が、まあ…憎めないやつでもある。
今夜にしてもそうだ。
愚痴愚痴愚痴愚痴やり始めたと思ったら、急に黙り込む。
「どうした?」と聞けば、グラスの酒を一気に呷る。
その繰り返しで、この様だ。
「タクシー拾えそうもないぞ…。もう少し歩けるなら俺のアパートに…」
ぐでっとしていた猿飛が、がばっと顔を上げた。
「旦那ん家?!」
「あ、ああ…」
一瞬、酔いが飛んだような顔の猿飛に思わず引くが、またすぐに、
「…気持ち悪い…」
とか言い出す猿飛に溜息を付いて、仕方なくその体を支え、歩き出した。
部屋の鍵を開けるのに、猿飛の体を離した。
「明日が休みだからいいようなものの…」
ドアを開け、部屋に招きいれようと振り向いた瞬間!
どんっ!と勢い良くぶつかってきた塊りによろめいた。
数歩後退さるが持ち堪えられずに、玄関の中に背中から倒れ込んだ。
衝撃に覚悟して思わず目を閉じるが、
「おっと、危ない」
などと言う猿飛の腕が、頭の下に差し込まれていた。
危ないも何も!!!
「何してるんだ!(真夜中なことに気が付いた…)…どけ…」
身体の上に覆いかぶさる猿飛が、俺のことをじっと見つめる。
酔った目付きではなくて、真剣…というよりもきつい目付きに、たじろいでしまう。