●捧げもの●

□look more
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佐助の頬に、幸村はそっと触れてみた。

「んー?何、旦那?」

などと、いつもと変わらない声を出すが、今の心配気な顔を見られないでよかったと思う。




佐助の顔に、いつもの戦化粧が施されていない。

そして…その顔には、両目を覆うように白い包帯が巻かれていた。

いつもなら、任務から戻ると、何事もなかったような汚れ一つ付いていない戦装束で幸村の前に現れる佐助。
浴びてきたであろう、泥も血潮も微塵も見せることは無い。

平然と、普段と変わらない様子で「たっだいまー」と間の抜けた声を出すのだ。


が、今回は違った。

しっかりとした口調で任務の報告をこなすが、その姿は戦装束ではなく、有り合わせの小袖姿。着物の端から覗き見える体に巻かれた白い布。

つまりは、自分では着換えられなかったということだ。いつものように、下手な芝居で任務の厳しさを隠すことが出来なかったということだ。

それも……顔に巻かれた包帯のせいだろうか?

「その目は…どうした?」

恐る恐る尋ねる幸村に、佐助は正反対の明るい声で応える。

「ああ、これー?光浴びちまっただけだよ。毒とかじゃないし。眼さえしばらく使わなきゃ、すぐによくなるさ」

「そうか……」

沈む幸村の声に慌て、

「目くらい見えなくても、何とかなるんで。旦那の顔は瞼に焼き付いてるし」

と、口元で笑って見せるが、押し黙る幸村の表情が見えない分、不安になる。

「旦那?すぐによくなるって。やだな…。こんなことに有給使いたくないしねえ…」

「佐助…」

首に手を回すように抱きついてきた幸村に、佐助は唇を噛む。

……だから、目立つところの包帯は嫌だったんだ。こんなもん、見えることにして誤魔化してりゃ…。ごめん、旦那…。

「旦那?」

出来るだけ、普段通りに呼び掛けるが、しがみ付いてくる幸村の腕の力は強くなるだけだ。

「あー、ほら!俺様、任務で旦那禁断症状だから!そんなくっつくと襲っちゃうよ」

おどけて言ってみると、幸村はそっと佐助から体を離した。

「そのような体では何も出来まい」

はは…、と力なく笑う佐助を、幸村は体一つ離れた場所からもう一度眺める。


戦装束を脱ぐと、鍛えられ、筋肉質だが案外と細い身体がわかる。
陽に晒さない肌は自分よりも白い。
疲れたように、俯き加減の顔には、伸び放題の前髪が影を作る。
普段の、からかうような、それでも力強い視線が塞がれている分、口元に目が行く。

ふう、と息を吐くその薄い唇を、初めて見たような気がして、ドキリとした。



手負いの佐助の姿に……、ゾクリとした。
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