*BL Original novel・2*
□baby→baby
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「マリ!」
うきうきと、事務所のドアを思い切り開けた。
『今日は仕事の後、事務所に居ます。宮元さんの仕事がもし早く終わったら…』
なんて、可愛いメールを寄こされたら仕事だってNG無しだ。
飛び込んだ事務所から、とたんに響く「んぎゃーー!」という泣き声。
うるさい声に、顔をしかめて事務所を見渡した。
デスクやマネージャー達の間から、マリがひょっこり顔を覗かせた。
「なんて声出してんだ、マリ」
子役にも程がある…と思いながら近付くと、
「僕じゃありません!というか、宮元さん!おはようございます、は?…あーよしよし。怖かったねえ、大丈夫大丈夫」
「あー?」
マリの前を塞ぐ神崎の肩に手をかけ、マリの姿を覗き込んだ。
デスクチェアに腰掛けたマリの膝の上、というか、両腕の中には、生後何ヵ月…とか、そんなことはよくわからないが、とにかく赤ん坊が居た。
「おはよう、宮元」
神崎が、俺の手が重いというように肩を捩った。
「ほら、パパが仕事から帰って来たよ」
とかほざいて、マリの腕の中の赤ん坊を突いた。
「はあ?!」
身に覚えが…あるっちゃあるが、無理だろ。
「マリママに似てよかったでしゅねー」
普段真面目な神崎の赤ちゃん言葉に、マリがぷっと吹き出した。
「って、誰がママですか、もう…。あ、また寝そう…」
マリが小さな赤ん坊の背中を優しく叩いてやると、悲鳴にも似た泣き声を止め、静かに目を閉じ始めた。
「…誰の子だ?」
何、恐る恐る聞いてるんだ、俺は。
「高岡先生の下のお子さんですよ。今日、奥さんも仕事で…。それで上の子が風邪ひいちゃったとかで病院に連れてくって、さっき…」
ほっ、とか、何安心してんだ、俺は…。
「で、マリ。そいつはどうでもいいから、行くぞ」
これからのお楽しみのために俺は仕事をさっさと終わらせて、そそくさとここに来たんだ。
「え?ダメですよ。この子人見知りするみたいで…」
「はあ?」
「木月さんが抱っこしてないと泣いちゃうんですよ!私たちでもダメみたいで…」
とかデスクの女の子がマリと赤ん坊に目を細めてる。
「…俺と赤ん坊どっちが大事なんだ」
言ってしまってから、しまった、と思った。
一斉に(マリも含めて)、俺に向かって呆れた視線を投げかけてきやがった。
「大人げない」
神崎はわざわざ口に出しやがる。
ガッ!と言い返したいが、またこの高岡のガキを泣かして面倒なことになるのも…マリに怒られる。
「……俺はあっちのソファーで寝てる。高岡はいつ戻る?」
くいっと応接室を親指で指した。
「奥さんの方が仕事終わったらここに迎えに来るそうだ。そろそろ収録も終わる時間だと思うが…」
「あ、そ…」
ちらりと振り返った、マリが赤ん坊を抱く姿に、なんとも…複雑な想いが横切った。