*BL Original novel・2*

□しゃぼん玉ゴシップ
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雀が鳴き始める早朝の街角では、すでににこやかな会議が始まっていた。

「おはようごさいます」

会議の邪魔をしないようにと、遠慮がちに挨拶をしたつもりだったけれど、手にしていたゴミ袋をクリーンステーションの網箱の中に押し込めた後で、すぐに御婦人方に囲まれた。気さくで明るい方々だ。

「ねえ、三崎さん。大変なのよ!町内会長が昨日の夜倒れちゃって運ばれちゃったらしいわよ」

早速、今朝の会議の議題が提示された。

「それは!お元気そうでしたのに。大事でなければいいのですが……」

「部屋の中で転んだって聞いたわよ」

「あら、階段から落ちたって聞いたわ。何しろねえ、お歳だし……」

御婦人たちの情報通にはいつも驚かされる。
ここ、閑静な高級住宅地の奥様たちの井戸端会議でも、僕の生まれ育った田舎町でも、話題の中身は大して変わらないんだろう。

「それとね、困ったことに、あんなものが捨ててあったのよ」

御婦人の一人が道路の端に置かれた袋を指差した。

「分別されてないのよ。しかも、時間外に出されたんじゃないかしら?」

「それは…、困りましたね」

スーパーの袋を透かして、ビールの空き缶やペットボトル、紙くずなどが見える。

「あ、これは僕が片付けて置きますよ」

気を利かした風にさらりと言って、そのゴミ袋を持ち上げた。

「いつも悪いわねえ。もしかしたら、あそこのお宅じゃないかしら?」

「あそこ、ですか?」

御婦人方が見上げた近所の邸宅に僕も目をやった。まだ新築されたばかり豪邸だ。

「あの時は、テレビの取材の車が入って来て迷惑だったわよねえ」

「ほんと!静かになって、ほっとしていますわ」

御婦人達の話題が変わった。

「どなたのお住まいですか?」

知らないことが意外だという顔をされるが、説明好きな方達だ。

「三崎さんがこちらにいらっしゃる前のことだったかしら?騒ぎになっていたのは」

「ええ。でも、テレビでは毎日やっていたわよ?」

重大な事件の現場だとしたらニュースで見た覚えがあるかもしれない、と記憶を辿るが思い出せない。

「若い女優と結婚をしたどこかの社長よ」

「新居を建築中にスピード離婚したって、ねえ、ニュースでやっていたわよねえ」

「慰謝料で揉めているって雑誌に出ていたわ」

芸能ゴシップニュースには興味がなく、記憶にないのも仕方がない。ご婦人方は話に盛り上がり始めてしまったが、

「あ、そろそろ朝御飯の支度をしないといけないので」

と、僕は頭を下げた。

「ああ、そうだわ。三崎さん、一度あそこのお宅を訪ねてくれないかしら?」

「え?僕がですか?」

「やっぱり、あちらって男性の一人暮らしのお宅でしょう?こうしてゴミ出しのルールも守られないようだと困るし…。町内会長さんが近々伺うつもりでいらっしゃったらしいけれど…」

「あ、そういえば、会長さんの息子さん夫婦の話、聞きました?」

またループした話題に会釈を残し、僕はエプロンをなびかせ家へと急ぎ足で戻った。
お味噌汁を温めっ放しだったことを思い出した。
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