*BL Original novel・2*
□似た者同士
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二人きりの稽古場で、すでに逃げ出したい。
「この、ヘタクソがあ!!」
拳こそ飛んでこないけど、代りに台本が投げつけられては同じ効果だ。
薄っすらと滲みかけた涙を慌てて手の甲で拭ったら、
「泣いて出来るんなら泣け!死んで出来るんなら死ね!」
とまで言われて、ぐっと涙を堪えた。
くそ…。
壁をバンッ!と叩く音に、びくっとしてしまう。
「何度言ったらわかる!声だけでやろうとするんじゃねえ!演技しろ!」
「やってます!!」
怒鳴り返したら怒鳴り声が止んだ。
代りに、細い目でギロリと睨まれた。
「やってます…、ねえ…」
しゃがみ込んで頭を抱えてしまえば少しは逃げられるかもしれない。
けれど、それは出来ない。
必死に睨み返す。
そんな僕を、宮元さんが鼻で笑いながら言う。
「ふん。お前はいつだってそうだな。ベッドの中ですら、俺が教えた通りに出来ねえ。やれと言えば、やってます…やってるつもりですぅ…出来ませんー。いい加減にしろ!」
声色を変えてまでやられて、カチン!ときた。
「それとこれとは違うでしょーが!」
怒りだす僕に、
「ほお、本気で怒れるんじゃん、お前。そんな風に感情を…」
とか、冗談で怒らせてるのか、演技指導なのか、そんなのわからない!
ただもう、頭にきたから、後のダメ出しは頭に入らない。
「もう!」
むかつく主の胸に飛びついた。
「う?」
宮元さんが言葉に詰まった。
仕返しだ!
両腕を宮元さんの背中に回して、ギュウッと胸に抱きついた。
「そ、そんなきつく言われても…わからないよ…」
甘えた声を出したら、
「あ、ああ…」
とか、困ってる。
宮元さんの、その両腕が僕の背中に回される。
抱きしめられる前に、するりと腕から逃げ出した。
手のやり場に困ってる宮元さんを、一歩離れて見上げる。
「ねえ?」
「ん、ん?」
目を閉じて顎を突き出したら、宮元さんが一歩近付く気配がする。
つかまる前に、また逃げ出した。
「おい、マリ…」
壁際で、両手を広げたら、がばっと飛びかかって来たので、その腕の下を逃げた。
ごつん、と壁に頭を打つ音がしたのに、べっと舌を出した。
「からかうな!」
小首を傾げ、わざとらしいと思うくらいに、キョトン、としてみせた。
「何が?」
「いいから、こい!」
伸ばした手が僕の腕を掴もうとする。
逃げ遅れて捕まった。
「何だってんだ…」
ようやく僕を腕の中に捕まえて、宮元さんが溜息混じりにぼやいた。
「演技ですよ。どうです?誘ってる風に見えました?」
「はあ?!」
今度は、演技ではなく、宮元さんの胸に顔を埋めた。
「お前…。ベッドの中で演技したらただじゃおかねえ…」
そんなどうしょうもないことを言いながらも、宮元さんが、僕を抱きしめる腕に力を込めた。
「どうですかね」
しれっと言って見せたら、慌てたように、僕の腕を掴んで胸から引き剥がし、僕の顔を覗き込んできた。
「おい…」
「あなたの言うとおりになんて出来ませんからね!演技も…ベッドの中も!」
プイッと横を向いたら、くくくっと苦笑いの顔で見詰められた。
「悪かった。……なあ、マリ」
近付く息が不必要なほど甘い声だ。
「俺がキレたらキスの一つでおさまる……」
覚えておこう……。
って!
二人きりのときじゃなきゃ、使えない。
たまには優しく、教えてよ。
(おしまい)
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