*BL Original novel・2*

□体温
1ページ/2ページ

「…あちぃ……ふう…」

帰ってくるなり、小さな声でぼやいて、息をついた。
よっぽど疲れてるのか、そのまま何も言わないでドサリとソファーに腰を降ろした。

僕も無言で、練習していたテレビのスイッチを切った。
ぷいっと宮元さんから顔を逸らし、台本に顔を埋める。

ほんとうは、「お疲れですね」とか言いたかったけど、言えない理由がある。



昨日の夜から喧嘩してるんだ。

いつものように、ベッドの中でまで、あーだこーだ、ぎゃあぎゃあうるさい注文をつけてくる宮元さんに……僕がキレたという……いつものことですね…。

だから、その時からずっと口を利いてない。



宮元さんは、天井を仰ぐようにソファーの背凭れに首をのせて、ぐたっとしてる。
両目を閉じた。
汗で髪の毛が額に少し張り付いている。
呼吸する度、胸が上下に動いてる。
……って!
知らない知らない!
見ない見ない!!

でも、宮元さんと一緒に居て、こう、静かなのも落ち着かない。
僕も口を利いてないから居心地が悪い。

ふいに宮元さんの携帯が鳴った。

「……ああ?ああ。それでいいんじゃねえ?まあ、俺も今度見に行くし……ああ……」

僕とは口を利かないのに、電話に向かって誰かと話してる。

なんだか……少しムッとした。
いや。
ずっとムッとしてるんだけどね!昨日の夜から!

携帯を切った後、また宮元さんは無言になった。
腕を組んで何か考えているみたいに難しい顔をしてる。
僕のことは見ようとはしないで、壁のどっかを睨んでる。

そんな…。
口を開かない宮元さんを…。
ついつい、見てしまう。

その横顔が。
目に入りそうな前髪が。
閉じた唇が。
投げ出された長い足が。

悔しいけどカッコいいと思う…。

そして、そんな姿を見ていたら、昨日からの怒りが少し治まってきた。

気が付くと、宮元さんが、こちらを横目で見ていた。
僕と目が合い、ふっと鼻で笑う。

「どうした?もう、構ってもらえなくて寂しくなったか?」

ああ!
どうしてこの人は口を開くとこうなんだ!

「ち、違います……ただ…」

ああ、悔しいけれど!

「しゃべらない宮元さんはカッコいいな、って思ったんです!!口を開いたら台無しですけど!!」

宮元さんがポカンと口を開けた。
瞬きしながら、

「そんなこと言われたの初めてだぞ……」

と戸惑いながら言う。
そりゃあ、そうだよね。
声が売りの人に、誰がそんなこと言うんだ。

「しゃべらない宮元さん、ねえ…」

僕の言葉を繰り返す。
そして……ぷっと吹き出した。

「そんなこと俺に言えるのはお前だけだな。あっはははは!」

腹を抱えて大笑いだ。
僕もおかしくなって、つられて笑ってしまう。

「くくっ…」

宮元さんの笑い声が小さくなって、僕を手招きした。
ここは素直に…そのそばに寄っていく。
腕を引き寄せられ、膝の上に乗るような形で抱き締められた。

「…疲れた。少し…このまま…。黙ってるから……」

目を閉じて、ふうっと深く息をする様子に、僕も大人しく宮元さんの胸に凭れかかった。



声よりも。
姿よりも。

この体温が、落ち着くんだ。




(おしまい)


「ボイスん」TOPへ

BLOriginal novelTOPへ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ