*BL Original novel・2*
□体温
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「…あちぃ……ふう…」
帰ってくるなり、小さな声でぼやいて、息をついた。
よっぽど疲れてるのか、そのまま何も言わないでドサリとソファーに腰を降ろした。
僕も無言で、練習していたテレビのスイッチを切った。
ぷいっと宮元さんから顔を逸らし、台本に顔を埋める。
ほんとうは、「お疲れですね」とか言いたかったけど、言えない理由がある。
昨日の夜から喧嘩してるんだ。
いつものように、ベッドの中でまで、あーだこーだ、ぎゃあぎゃあうるさい注文をつけてくる宮元さんに……僕がキレたという……いつものことですね…。
だから、その時からずっと口を利いてない。
宮元さんは、天井を仰ぐようにソファーの背凭れに首をのせて、ぐたっとしてる。
両目を閉じた。
汗で髪の毛が額に少し張り付いている。
呼吸する度、胸が上下に動いてる。
……って!
知らない知らない!
見ない見ない!!
でも、宮元さんと一緒に居て、こう、静かなのも落ち着かない。
僕も口を利いてないから居心地が悪い。
ふいに宮元さんの携帯が鳴った。
「……ああ?ああ。それでいいんじゃねえ?まあ、俺も今度見に行くし……ああ……」
僕とは口を利かないのに、電話に向かって誰かと話してる。
なんだか……少しムッとした。
いや。
ずっとムッとしてるんだけどね!昨日の夜から!
携帯を切った後、また宮元さんは無言になった。
腕を組んで何か考えているみたいに難しい顔をしてる。
僕のことは見ようとはしないで、壁のどっかを睨んでる。
そんな…。
口を開かない宮元さんを…。
ついつい、見てしまう。
その横顔が。
目に入りそうな前髪が。
閉じた唇が。
投げ出された長い足が。
悔しいけどカッコいいと思う…。
そして、そんな姿を見ていたら、昨日からの怒りが少し治まってきた。
気が付くと、宮元さんが、こちらを横目で見ていた。
僕と目が合い、ふっと鼻で笑う。
「どうした?もう、構ってもらえなくて寂しくなったか?」
ああ!
どうしてこの人は口を開くとこうなんだ!
「ち、違います……ただ…」
ああ、悔しいけれど!
「しゃべらない宮元さんはカッコいいな、って思ったんです!!口を開いたら台無しですけど!!」
宮元さんがポカンと口を開けた。
瞬きしながら、
「そんなこと言われたの初めてだぞ……」
と戸惑いながら言う。
そりゃあ、そうだよね。
声が売りの人に、誰がそんなこと言うんだ。
「しゃべらない宮元さん、ねえ…」
僕の言葉を繰り返す。
そして……ぷっと吹き出した。
「そんなこと俺に言えるのはお前だけだな。あっはははは!」
腹を抱えて大笑いだ。
僕もおかしくなって、つられて笑ってしまう。
「くくっ…」
宮元さんの笑い声が小さくなって、僕を手招きした。
ここは素直に…そのそばに寄っていく。
腕を引き寄せられ、膝の上に乗るような形で抱き締められた。
「…疲れた。少し…このまま…。黙ってるから……」
目を閉じて、ふうっと深く息をする様子に、僕も大人しく宮元さんの胸に凭れかかった。
声よりも。
姿よりも。
この体温が、落ち着くんだ。
(おしまい)
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