*BL Original novel・2*
□面倒な恋人
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「照れてるんすかね…?」
「え?」
「いや、あの…。あいつ、いっつも怒ってるんすよ。何が気に入らないのか、よくわっかんないんっす。俺の顔を見ちゃあイライラして可愛くないこと言ってきて、とうとう今日なんて、完全シカトっすからね…」
「…岩井さん…、可愛いね」
「可愛くないっすよ!まじで!こっちの身にもなってほしいっすよ!」
マリさんはクスクスと笑い出した。
「わかってるんでしょ、住吉君」
ニッコリとマリさんが笑顔で俺を見た。
「…たぶん、その…。素直じゃないんっすよ、悠也は」
ポリポリと頬を掻いてみた。
「シカトしてたってことは、どうして欲しかったんだろうねえ?」
「どうって、、まあ…、……構って欲しかったのかなあ…」
思わず遠い目をしてしまう。
「……駅の改札で住吉くんを待ってるっていうのは、どうしたいんだろうね?」
「改札?え?」
喋りながら歩いていて、いつの間にか最寄りの駅まで着いていた。
切符売り場の横の改札の前に、俺よりだいぶ早くスタジオを出たはずの悠也が立っていた。
俺を見つけ…(ついでに横に居るマリさんも目に入ったはずだ)悠也はぷいっと顔を背けた。さりげなく改札を通ると、いきなり猛ダッシュで駈け出した。
「え、あれ、あ…」
なんか悠也の後ろ姿を指差して、マリさんに助けを求めてしまう。
マリさんは優しく目を細める。
「頑張ってね、住吉君」
俺は尻のポケットから財布を抜き取りながら、振り返り振り返り改札を通り抜ける。
マリさんは笑顔で俺に手を振る。
ちくしょう!可愛い!
だけど、なんだろな、これって。
悠也が気になって、足は勝手に悠也を追いかける。
「マリさん!今日のお礼に、まじで今度食事に付き合って下さいね!」
そう叫んだのに、マリさんはすでに俺から視線を外してしまっている。少しショック。
俺がマリさんに抱く想いは、いったいなんだろう?
憧れ…なのかな?
マリさんの笑顔を見るだけで幸せになれる。
いっつも笑ってて欲しいな、あの人には。
「悠也!」
ちらっと見えた後ろ姿を呼ぶ。
俺にとって悠也は何なんだろう?
笑顔なんて滅多に見せてくれないから、まずは笑顔にするところから始めなきゃならない。
離れて眺めていて幸せになれる相手じゃなくって、汗と涙で懸命につかみ取る幸せ…。
あー、もう!
面倒くさい恋人だな!
ん…でも…。
恋人って、こんなもんなのかな?
可愛いなあ、なんて、呑気に眺めてられるのは恋人じゃないからなのかもしれない。
そいや、宮元さんもマリさんに関しては結構必死なところあるよな。
俺がこうして、悠也に必死なのは恋人だからなのかな?
構って欲しくて仕方がない、あいつに。
ホームに止まっていた電車のドアが閉まる寸前で飛びこんだ。
ドアの中には、悠也が少し驚いた顔して俺を待ち受けていた。
そして、くるりと俺に背を向けて、反対側の閉じたドアに張り付いた。
混んできた電車の人の群れから悠也を守ろうと、悠也の顔の脇に両手を付いた。ドアと俺の隙間で、悠也がびくっと肩を震わせた。
「ぜぇぜぇ…。…あ、ねえ、この後、暇?」
悠也の背中にピタリと張り付き、呼吸を整えながら聞いてみた。少し癖っ毛の髪が顔をくすぐる。
「……暇じゃない」
「そっか、暇なんだ」
むすっとした顔で少し首を捻って俺を見上げてくる。
俺はすました顔でまた聞いてみる。
「どっか行く?俺んちでもいいけど」
「……行かない」
「そっか!遊びに行きたいんだ?!」
うーっと唸りそうな顔で悠也が俺を睨みつけてくる。
「ね、何怒ってたの?」
「……怒ってなんかない…」
「そっか。怒ってないんだ。よかった」
「なんでそこだけ!」
さあて。
今日はこれから、このしかめっ面を打ち崩してみせましょうかね。
わくわくするじゃん。
「…離れろ!暑苦しい」
「んー?もっとくっつけってこと?…いてっ!」
背中と胸をさらに密着させてやれば、怒って足を踏みつけてきた。
笑顔を眺めて幸せになるんじゃなくって。
俺が笑顔を作ってやる。
だってさ、考えてみたら、悠也がどこかの誰かと笑顔を作って、それを眺めて嬉しいかって聞かれたら、嬉しかないじゃん?
だってさ、恋人なんだからねえ。
「……お前…、今日は木月と一緒だから嬉しそうだった…」
拗ねていた原因がヤキモチだったとわかった。もっと早く素直になればいいのに。
だけど、素直になるのはすっごく恥ずかしいらしい。
悠也は耳まで赤くする。
いいね。もっと俺を夢中にさせてよ。
「ねえ?愛しい恋人にシカトされて傷付いてる俺を慰めてくんないかなあ?」
甘えた声を出して擦り寄ると、悠也は俯いて、
「…懲りない奴」
って呟いてから、クスッと笑った。
その笑顔に、ドキンと心臓が鳴ってしまった。
もしかして…手玉に取られているのは…俺の方?
抓られるのを覚悟で、そっと悠也の腰に手を回した。
(おしまい)