*BL Original novel・2*
□存在の理由
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マンションから表に出て、とぼとぼと歩き始めた。
しばらくすると、僕の少し先でタクシーが止まった。
ドアが開き、「マリさん」と呼び掛けられて車に乗り込んだ。
「大丈夫っすか?愚痴でもなんでも聞くっすよ。…ほら、俺達、その…友達っすから!」
住吉君が間近でニッと笑った。
「友達友達…」
自分に言い聞かせるみたいに呟く住吉君に、
「…ごめん」
甘えてごめん、と小さく言った。
几帳面な住吉君の部屋が、今日は少し散らかっていた。付けっ放しのテレビや、食べかけのコンビニの弁当。それだけ慌てて飛び出して来てくれたんだと思うと申し訳がない。
住吉君はちょこちょこ部屋を片付けながら僕を座らせ、缶ビールなんか持って来てくれる。
「あ、あのさ!変なこと聞いていいかな?」
僕の向かいに座った住吉君はニッコリ笑う。
「どうぞ」
「そ、その…、住吉君は恋人と、その…し…してる?…その…身体の関係というか…その…セ…、セック…ス……」
いつも飄々とした表情の住吉君が、珍しく赤くなった。
「そ、そりゃあ、まあ、やることやっちゃってます、つうか…。はは…」
恥ずかしさを誤魔化すために、身体を乗り出して思い切って聞いてみた。
「何のためにするの!?」
「は?!…あ、いや、驚いたな、マリさんにそんなこと聞かれるなんて…」
「…ごめん…」
住吉君は頬をポリポリ掻いた。
「いやいやいや…。いいっすよ。えー…、好きだから?それじゃああんま答えになってないっすかね?んー…」
「ストレス発散?」
「それはないっすよ!ガキじゃあるまいし。…って、まさかみやもっさん、んなことマリさんに言ったとか?!」
「言ってはいないけど…。他にどんな理由があるのかわからないよ!だいたい、僕は男だし、結婚して子供作るためでもないし、それなのになんで…」
「あー。俺、マリさんとみやもっさんの喧嘩の理由、だいたいわかった」
住吉君がぽん、と拳を手の平で叩いた。
「え?」
「ほら、俺はさ、結構思ってること言っちゃう方じゃん?好きなら好きーって言わないと気が済まない方だし。…だけどみやもっさんって、意外に口下手なんすよねー」
思わず頷いてしまう。
「なんかきっと、言葉が足らなくてマリさんを怒らせたんでしょ?」
「…余計なことはいっぱい言うよ…」
「あははっ!」
そのとき、テーブルの上に置いてあった住吉君の携帯が鳴り出した。
「あ、ちょっとごめんね…。って!噂をすればの…ははは…、みやもっさんっすよ…」
住吉君が携帯を開いて着信の名前を見せてきた。
「ど…しましょ…?」
僕は住吉君の手から携帯を奪った。そのままの勢いで電話に出た。
「……なんですか?」
『…え…、マリか?…お前…、…住吉と居るのか?』
相変わらずな不機嫌な声だ。
「ええ、そうですよ!今夜はここに泊めてもらいます!じゃあ!」
ピッと切ってから携帯を住吉君に返した。
「はは…。俺、殺されっかも」
住吉君は苦笑いしながら僕から携帯を受け取った。