*BL Original novel・2*

□ジンジャーシロップ
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(2)

ファミレスのボックス席で、俺の話も聞かないで悠也は窓の外を眺めている。
でも、ほんとは聞いていない振りをしながらちゃんと聞いてるはず。
目を見て見つめ合ってニコニコしながら話しが出来るとまでは思っていないけど、もう少し、こうね…。
まかりなりにも恋人同士…なわけで…。
口を止め、悠也の横顔を見つめた。
陽の光に柔らかい髪が茶色く透けてる。白い肌、長い睫、いつも少しきつめの眼差し。
今まで付き合ったどんな子よりも、俺は悠也が可愛いと思う。…なんて言ったら真っ赤な顔して俺のことボロクソ言いそうだ。
はは…、もしかして、俺ってばMなのか?あは。
そんな風に悠也を見つめていたら、いきなり悠也の顔に動揺が走った。
窓の外に向けていた視線を慌てたように外して、今度はいきなり俺と目が合ったことにも慌てた。

「何?どしたの?」

「何でもない!」

そう言うけど、水の入ったグラスを持とうとした手が微かに震えてるのに自分で顔をしかめてる。

「お待たせいたしましたー!」

ウェイトレスがパスタの皿を運んできたことに、悠也はほっとして見せた。動揺のわけをを聞かれたくないんだろう。
別に、そんなに詮索好きじゃあないさ。
何か話題でも振ってやろうと、俺が口を開いたとき、

「ねえ、ゆう…」

「悠也!」

俺以外の声が悠也の名前を呼んだ。
悠也の手からフォークが床に落ちた。
俺はそんな悠也の驚いた様子に驚いた。

「お客様、新しいフォークをお持ちいたしましょうか?」

店のウェイターのような口調だが、スーツ姿の男が、俺たちのテーブルの横にしゃがみ込んだ。

「なんてね!よっ!久しぶり!」

落としたフォークを拾い上げながらスーツの男が立ち上がった。白い歯を見せニカッと笑った。

「…矢倉…」

悠也はさっきまでの動揺を捨て、はにかんだような嬉しそうな顔を見せた。

「外歩いてたら悠也が見えたから。…元気そうで…よかった」

「矢倉も元気そうだね…」

気を利かせた店のウェイトレスが俺たちの席にもう一つ、水を運んできた。

「あ、わざわざありがとね。ごめんね、食べていきたいけど時間がないんだ。でも喉乾いてるからこの水、飲んでもいいかな?」

そいつの爽やかな笑顔に、トレイを抱えたウェイトレスも悠也もクスリと笑う。
俺だけ、輪に入れずむっとしてしまった。

「誰?」

声を出したら不機嫌な声だった。

「あ、こいつ、昔バイトで一緒だったんだ」

悠也に紹介されて、そいつはぺこっと俺に頭を下げた。
そして悠也の耳元に、いきなり顔を寄せた。

「ねえ、一緒にいる人ももしかして悠也と同じ、声優ってやつ?なんかさ、芸能人ぽい」

俺にもばっちり聞こえてるんだけど。

「一緒の事務所の住吉っす。岩井さんとは…」

「あ、ごめん。あんま時間がないんだ。悠也、俺、あれからアドレス変わったからさ。えーと、ここに、今度メールして。頼むよ」

俺のことなんて興味なさげに、そいつは悠也に名刺を押しつけた。その強引さに、悠也も少し戸惑った顔をした。

「絶対だよ」

穏和そうなそいつの目が、瞬間、力を帯びて悠也を見つめた。悠也が頷く。
そしてそいつは…、そのまま俺に視線を滑らせた。
…明らかに…敵視する視線だ。

「じゃ!またね!」

立ち去るそいつを見送る悠也の表情が、ひどく穏やかで、俺には見せないような、優しい目をしていた。
俺は詮索は好きじゃない…はずだった…。

「誰、今の?」

料理を目の前にして食欲が失せた。
悠也は何事もなかったかのように食事を始めた。

「言っただろ。昔バイト…こんなファミレスでバイトしてたとき、一緒に働いてた奴だよ」

それだけ?とか、口にしそうになって飲み込んだ。

「なんか爽やかな奴だったね。女の子にモテそうだ」

「昔からちっとも変わってないから驚いた。いっつもあんな感じで…」

くすっと、悠也が笑った。
だからなんで、そんな優しい表情をするの?
俺にはそんな顔、滅多に見せてくれないじゃん。
だんだん苛立ってくる自分がイヤだ。そんなん、俺のキャラじゃないはずだ。
出来るだけチャラけて明るく言ってみた。

「あー!もしかして悠也の元彼ってやつ?!…なんちゃ……って…」

目の前に、耳まで真っ赤になって、初心な女の子みたいに恥ずかしそうに俯く悠也が居た…。

まじで……?
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