*BL Original novel・2*

□ジンジャーシロップ
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「昔のことなんかどうでもいいだろ!」

悠也はいつもよりも多めに巻いてます、みたいな勢いでパスタを食べ始めたから、俺も無理やりにフォークを口に運ぶ。

「あのさ…」

話しかけたら睨まれた。さっきまでのあの可愛らしい態度は夢でも見ていたかのようだ。

「うるさい」

詮索しようとして話しかけたわけじゃないのに、この言われよう。必死に隠すようなことでもあったのかと、逆に勘繰りたくもなる。だけど…、詮索も束縛も俺の柄じゃない。そんなことしたくない。

それなのに…。

「どうせお前は今までいっぱいいろんな人と付き合ってきたりしてるんだろ?」

悠也の方からそんなことを言ってきた。

「そりゃあ、まあ…」

悠也の過去を聞かなかったのと同じように、俺の昔話なんてイチイチ悠也に教えていない。だって、別にそんなのどうでもいいと思ってたから…。

「僕はお前みたいにふらふらと遊んでなんかいなかったから!」

「はあ?俺がいつ遊んでたよ?」

「知らないよ!どうせ遊んでたんだろうって言ってるだけだ」

何で突然悠也が怒りだしたのか意味が分かんない。

「今だって、お前はあっち向いたりこっち向いたり…」

「俺がいつ…」

「自分の胸に手を当てて考えてみればいいだろ!」

なんでこんなところで口喧嘩を始めなければいけないのかも意味が分からない。ただ、原因は…。

「あ、そっか…。そのアドレスに連絡取るつもりなんだ?」

テーブルの上に置かれていた名刺にチラリと視線を送った。

「お前には関係ないだろ!」

悠也がその名刺を急いでポケットにしまおうとした。俺はその手を掴んだ。

「待てよ。関係なくはないだろ?!」

まじで元彼なんかに連絡入れるつもりかよ?俺がいるってのに?

「はなせよ!用事を思い出した。先に帰る」

悠也は俺の手を振りほどき、ついでに伝票もひっつかんで立ち上がった。
周りが俺たちの言い争いをちらちらと気にしているのが見えた。カアッと上りかけてた頭の血を押さえるために、ふうっと一息吸い込んだ。

「…今日はデザートも食べていいって言ってたじゃん?」

何でもない風に、のんきを装ってソファーに深く腰掛け直した。
悠也は、ふんっ!と顔を背けて、そのまま立ち去ってしまった。今度は深い溜息を吐く。
悠也の機嫌の変化にも付いていけず、かといってご機嫌取りを放棄したらこの様だ。
それでも普段なら追いかけて行って捕まえてやっただろう。今日はやっぱり、あの男の出現が引っかかってる。追いかけていいのかな…なんて、妙に消極的な俺がいる。
仕方なしにデザートのメニューを手にとって眺めた。
どれもこれも俺好みの甘ったるいスイーツだ。

俺の恋人も、見た目はこんなスイーツみたいに可愛らしい。だけど、きっと、苦〜いシロップがたっぷりとかかってるんだ…。

最初からわかってて、齧り付いたんだから仕方がない…。


   *


次の日、仕事が終わって帰宅するとき、俺の部屋の最寄り駅よりも一駅前で降りた。悠也の家に近い駅だ。いつもなら、この駅で降りた時は悠也に連絡を入れる。
昨日みたいな小さな喧嘩はしょっちゅうだから、今日も何でもないように連絡をしようとしたときだ。

目の端に、悠也の姿を見つけた。
俺が声をかける前に、悠也の姿が消えた。
駅前のロータリーに入って来た車に、悠也が乗り込んだんだ。
俺の前を通り過ぎていく車の中には…、スーツ姿のあの男と、悠也の笑顔が一瞬見えた。

呆然と立ち尽くす俺…。
めちゃめちゃ格好悪いな……。
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