*BL Original novel・4*
□二人時間
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今日は佐和さんはいつもより早く帰宅してくれた。
玄関でカバンを受け取りながら、
「お帰りなさい。お風呂沸いてますよ?ご飯はもうすぐ出来ます」
と言うと、佐和さんはニッコリ笑いながらネクタイを緩めた。
「風呂は…、後で好緒と一緒に入ろうかな?腹ペコなんだ。ご飯、支度で手伝えることがあるなら言って?あ、好緒の観たがっていた映画のDVD買ってきたよ」
佐和さんの外したネクタイと脱いだジャケットを受け取りながら、僕もフフ…と笑ってしまう。
「どうしたんですか?ご機嫌ですね?」
「好緒の顔を見たら疲れが飛んでしまってね」
佐和さんは、このところ仕事が忙しくて、毎晩帰宅が遅く(先に寝ていなさいと言われても頑張って起きていたら怒られた)家に帰れない日もあったりした。顔には微かに疲れも滲んでいる。
佐和さんはキッチンに向かう僕を背中から抱き締めてきた。
「やっぱり好緒から先がいいかな…」
「それでもいいですけれど…、途中でお腹が空いたからってバテられても困ります」
「アハハ!じゃあ、前菜だけ、先に…」
佐和さんは僕の身体をクルリとひっくり返すと、僕の顎をくいっと持ち上げた。
パクッと啄むように僕の唇に唇を重ねた。
ドクンと心臓が鳴って、僕の方からおねだりをしてしまいそうで、僕は「もう!」なんてわざとらしく頬を膨らませながらキッチンへ逃げた。
夕食の席では、佐和さんは僕の話に耳を傾けてくれる。本当は僕の方こそ仕事の愚痴の一つでも聞いてあげたいけれど、佐和さんが楽しそうに僕の話を聞いてくれるから、ついつい自分のことばかり喋ってしまう。
「今日は庭に花壇を作ったんですよ」
「草むしり大変だっただろ?」
「ええ!そりゃあもう大変でしたよ!でも綺麗になってきたので、今度お庭でバーベキューとか出来るかも」
「おお、それはいいね!夏になったら庭でビールが飲めるのか」
「花火もやりましょうよ!」
「いいね」
佐和さんは食欲旺盛で、僕が作ったありきたりの家庭料理をペロリと平らげてくれる。お代わりをよそって渡すとまた楽しそうに聞いてきてくれた。
「花壇には何を育てるの?」
「そうですねえ…、やっぱり野菜かな?食べられるもののほうがやる気が湧きますよね!」
「あ…、好緒が育てそうなのがわかった…」
「ピーマン!」
「ピーマンだろ?」
二人で同時に同じ野菜の名前を口にして、アハハハと笑い合った。
「他のも育てますよ!今日、スーパーで野菜の苗売ってるの見てきたんですよ。トマトにキュウリにナスに…」
「いいね。うちで八百屋ができるな」
「アハハ!頑張ります」
食事を終え、僕が後片付けをしている最中に、ウツラウツラとし始めた佐和さんを促して先に風呂に向かわせた。寝かしてあげたいけれど、どうせ眠るならサッパリしてからじゃないと疲れがとれない。
佐和さんがサッパリとした顔で風呂から上がって来て、僕にも入っておいでと促してくれた。
風呂から上がると、佐和さんはリビングのテーブルの上にウィスキーと氷とグラスを並べて、晩酌の支度をしていてくれた。
薄暗く明かりを落とした部屋で、二人でソファーに並んで座り、琥珀色が揺れるグラスをカツンと合わせた。
僕の好きなファンタジー映画が映画館のような大画面で流れる。だけどここは二人きりの我が家。寄り添って、誰も見ていないからたまにキスを交わす。
「なあ、好緒、今度休みが取れそうだから、どこかに行こうか?」
静かな声で佐和さんが言った。目が優しく細められて僕を見つめている。
「あ、でも…。休みをとるために佐和さんがお仕事無理するのは…」
「そんなこと心配しなくていいんだよ。好緒は、俺にどうやって甘えようか考えているだけでいいんだから」
空になった二人のグラスに僕は氷を落とした。
「そうですね…。佐和さんはどこに行きたいですか?」
「俺は…、うーん…。好緒と一緒ならどこでも」
「僕も、佐和さんと一緒ならどこでも…」
「それじゃあ、作戦会議が進まないな」
「アハハ」
ロックのグラスを佐和さんに渡して、僕も水割りのグラスに口を付けた。
「海外だとどこかな…。前に行った南の島も楽しかったね」
「はい。やっぱりゆっくり出来るところがいいですね」
「一日中二人でベタベタ出来るところがいいな…」
「それじゃあ、家にいるのと変わりませんよ…」
「好緒?」
ふいに、佐和さんが僕の頬を指先で撫でた。
「どうした?なんで泣いてるんだ?」