*BL Original novel・4*
□バースディ・ヴァージンロード
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今日は宮元さんと一緒の仕事だったから、そのまま二人して一緒に帰路についた。
一日中、ちょっとソワソワしている僕に、宮元さんは澄ましたいつも通りの態度でいるから、てっきり今日が何の日か、忘れられてしまっているのかと思った。
だけど、家の最寄りの駅で降りた時に、宮元さんがボソッと言った。
「ケーキ、買って帰るか?」
「…は…、はい!」
僕は嬉しくて、思わず宮元さんの腕に縋ってしまった。宮元さんは照れたようにニヤッと笑った。
──今日は僕の誕生日だ。
慌ただしい現場では、誕生日の話題も出る暇はなく、朝から僕に何にも言ってくれない宮元さんに、自分から言うのもしゃくで、もう少しで拗ねるところだった。
駅ビルの中のケーキ屋さんで二人で並んでショーウィンドウを覗きこんだ。
「ショートケーキ二つにしましょ…」
僕が宮元さんに尋ねようとした時に、すでに宮元さんは店員さんに注文してた。
「そこの白くて丸いやつ一つ。ああ、一番でかいの」
僕は驚いて宮元さんの袖を引いた。
「二人じゃ食べきれませんよ?」
「…明日は三食これを食えばいいだろ」
「えー…」
ちょっと優しくしてくれたかと思えば、これだから、もう…。
でも、大きめのケーキの箱を下げて歩く宮元さんに並んで歩けば、嬉しさだけが込み上げてきた。
「マリ、こっちを通って帰ろう」
と、宮元さんが僕の手を引いた。昼間は賑わっているが、夜は静かな公園だ。赤いレンガの遊歩道がぐるりと公園を取り囲んでいる。ポツリポツリと立つ街灯で、その道が浮かび上がって見える。
少し歩くと、宮元さんがギュッと僕の手を握ってきた。そして、必要以上によく通る声を抑えながらも、見上げた夜空に向かってメロディを低音で口ずさみ始めた。
「タタタターン…、タタタターン…」
何のメロディかわからずに、ちょっとの間悩んでしまったけれど、
「あ!CMの曲ですね!」
婚活雑誌か何かのテレビCMで流れているクラシックだったっけ?宮元さんは僕をチラリと見下ろしてから、歌を止めた。そして、静かな声で誰もいない道の先に向かって語りかけるように言った。
「富める時も…貧しき時も…、病める時も健やかなる時も…」
まるでお芝居の中の台詞のように、どこかで聞いたことのあるような台詞が流れ出た。
「…死が二人を分かつまで、永遠の愛を…誓いますか?」
そして、宮元さんは一呼吸置いてから、自分の問いかけに対して、
「誓います」
痺れるようなバリトンボイスで愛を誓った。そして、僕の手を握り締める指先に力を込めた。
「マリ、お前は?…誓いますか?」
宮元さんが、僕を真っ直ぐに見つめて問いかけた。そこでようやく、ぼんやりしている僕の頭でも、今のが結婚式の誓いの言葉だってわかった。
「あ、あ…、えっと…、ち、誓います…」
これでいいのかな?と宮元さんを見上げると、照れたように赤らめた目元で優しく微笑んでくれた。そして、
「それでは指輪の交換を」
と、また牧師さん役になって言った。