*BL Original novel・4*
□バースディ・ヴァージンロード
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そして、
「持ってろ」
と、ケーキの箱を僕に押し付けて。ジャケットのポケットに手を突っ込んで、ゴソゴソと漁った。
「手」
「え?」
手、と言われて、手の平を宮元さんに見せると、
「バカか。手相見せてどうする?」
と一言言われて、手首ごと掴まれて引っ張られた。宮元さんの指先に、キラリと光るシルバー色のリングが見えた。
「え、あ、あの、それ…」
戸惑う僕の指先に宮元さんが触れた。そして、迷うこと無く、僕の指にそのリングをはめ込んだ。信じられないことに、サイズが僕の左手の薬指にピッタリだった。
「ほら、お前も…」
指輪をはめられたばかりの手をひっくり返され、手の平にコロンとリングを落とされた。今、僕の指にはめられているものと同じ物だ。少しだけ、僕のより大きい。
「あ、えっと…」
「これは置いておけばいいだろ」
宮元さんは、思考の鈍い僕の手からケーキの箱を取り上げると、道の横に合ったベンチの上に置いた。そして、
「ほれ」
と、自分の左手を僕に向かって差し出してきた。
宮元さんの手は僕より大きくて、長く筋張った指の、綺麗に爪は整えられていた。僕は、恐る恐るリングを僕のリングがはめられている指と同じ指に当てる。緊張で震える指で、宮元さんの指の第一関節まで差し込むと、焦れた宮元さんが、自分で指の根元までリングをはめ込んだ。
「次はっと…。…誓いのキスだ」
宮元さんは、僕の顎の下に指をかけ、僕の顔をクイッと上に向かせた。
「い…、一体、何なんですか…?」
戸惑う僕に顔を寄せながら、宮元さんはニッと笑う。
「誕生日と結婚記念日が一緒なら忘れないだろ?」
驚いて目を見張る僕の唇に、宮元さんは自分の唇を落とした。
チュッと軽く触れて離れて、
「…目を閉じろ」
真顔で僕に命じて、照れたように前髪を掻き上げた。
そして…。目を閉じた僕の両頬を両手で包み、優しく…深く、誓いのキスをしてくれた。
宮元さんは、片手にケーキの箱を下げ、もう片手で僕の手をしっかりと握り締め歩き出す。
「さってと。後は、家に帰ってケーキ入刀だけだな」
なんて、まだ結婚式の中にいる。
あなたは、ほんとにロマンチストで…。
たまにうっとりさせられて、感激してしまう僕も似たもの同士かもしれないけれど…。
降り注いできそうな星たちはライスシャワー。
赤いレンガの道は、まるでヴァージンロードのように見えた。
(おしまい)