*BL Original novel・4*
□ハート・ポイント
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深い眠りに落ちていた身体を揺さぶられ、俺は不快に目を開けた。
そのとたん、視界いっぱいに人の顔が有り、ホラー映画を思い出して、
「ヒーッ!」
と声を上げ、身体は逃げを打った。そして、ソファーから転げ落ちた。
「いてててて…」
「何やってるんですか、課長。だいたい、ずっとそこで寝てたんですか?って、昨晩はまさか会社に泊まったんですか?」
俺の腕をとり、俺の身体を起こしてくれながら、呆れ声で部下の吉田が言った。
「その…仕事が終わらなくて…」
要領の悪い俺は、一人残業で残っていた。そして、ちょっとだけ、ちょっとだけ横になろうと思ってソファーに転がった…ところまでは覚えている。
今は、事務所の中は明るい日差しが差し込んできている。どうやら朝のようだ…。
「ほんとに仕事してたんですか?!俺の誘いを断る口実かと思ってましたよ。すぐに携帯繋がらなくなったし」
吉田は俺をソファーに座らせると、俺を見下ろしながら肩をすくめた。
「あ…、充電するの忘れてたんだ。会社の充電器、なんだか接触が悪くて…」
いい訳ではない。本当のことだ。だからわざわざ携帯を取り出しパカリと開いて見せた。真っ暗な画面を吉田に向かって突き出すと、また呆れた様子で肩をすくめた。
「だからアラームも鳴らなかったんですね」
その言葉に慌てて壁の時計を見ると、毎朝の起床時間はすっかり過ぎていた。
「ヤバい!遅刻する!」
「……しませんよ。ここ会社です」
「あ、あ、そうか…」
俺は寝ぼけた頭をポリポリと掻いた。
ああ、変な寝方をしたせいか体の節々が痛い。
「んー、寝違えたかな…」
コキコキと首を鳴らし、腰を拳でコンコンと叩いてみる。歳のせいかもしれない。
「課長、もう一度ソファーに横になって下さい」
吉田が腕まくりをしながら言った。
「ん?」
「マッサージしますよ。俺、上手いんで」
俺は、まるで乙女のように自分の身体を自分の両腕で抱いて警戒態勢で吉田を見上げた。
吉田とは以前、一度だけ…過ちを…おかしたことがある…。
「け、結構だ…」
俺のあからさまな態度に、吉田はわざとらしいほど大きな溜息を吐いた。
「はあ…っ!俺、あの日以来平木さんを無理やりどうこうしようとかしてないですよね?俺的には、結構つらい状況ですけど、やっぱ、ちゃんと課長が俺のこと、好きになってくれてから、というか…、平木さんから俺に身を任せてくれるまでは我慢しようというか…。俺は俺なりに…」
「ス、ストップ!ここは会社だぞ!どこで誰が聞いているかわからん!やめないか!」
ペラペラとしゃべる吉田の口を塞ごうと伸ばした腕を吉田に掴まれた。
「課長は、力では俺に敵いませんよ?」
俺を見つめる吉田の瞳が熱を帯びている。ま、まずい!話題を逸らそう!
「そ、そうか!吉田はマッサージが上手いのか!そ、それはぜひお願いしようかな?」
俺は、吉田に掴まれている手をどうにか振りほどき、ソファーの上にうつ伏せに寝転がった。
「ただ、その、あー、なんだ?…ベ、ベルトから下は…その…触らないで…ほ、欲しいというか…。あー!その!変な意味ではなく、その…」
吉田は、俺が寝そべるソファーにギシリと片膝をついた。
「わかりました。信用して下さい。ベルトから下には一切手を触れません。なんなら両手とも指一本っつしか触れなくてもいいですよ。邪な気持ちは持たずに、純粋にあなたに医療行為としてのマッサージをします。上司へのゴマスリだと思って下さい。いいですか?」
吉田はそんなことを言いながら、俺の背中のツボを突いた。
「うっ、ウウッ。そこ…」
「気持ちいいですか?」
「うっ、うん…」
吉田はテクニシャンだった。