*BL Original novel・4*
□All Truth
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スタジオ入り待ちのロビーで、台本を読む僕に向けて、なんだかたくさんの視線が向けられている気がする。
チラリ、チラリ、と僕を見てる?僕が振り向くと視線が外される。けれど、ヒソヒソと何か話してる?僕のこと?
どうにも落ち着かない気分で過ごしていると、明るい挨拶の声と共に、住吉君がスタジオに入ってきた。僕は、住吉君に手を振った。
そのとたん、住吉君が叫んだ。
「なっ!マリさん!ちょっと!ちょっとー!」
その剣幕に圧倒されながら後退ると、住吉君の方から迫ってきた。そして、僕を壁際まで追い込んで、僕が逃げられないように、僕の顔の両側の壁に両手をついた。
「な、何?どうしたの?住吉く…」
僕らのことを周りの人たちは興味深げな視線を送っているのを感じる。だからか、住吉君は声を潜め、僕の耳元で言った。
「…左手の薬指…、リング、目立ってますよ?」
あああああっ!
すっかり忘れていた!
指輪などをはめたことがない僕だったけれど、三日間は違和感にいじりまくって、一週間してようやくその存在になじんだ、そんな状況の今だ。
「いや、あの、これは…」
僕は台本を脇にはさみ、右手で左手を隠してもじもじとするしかない。
気配り名人の住吉君は、僕たちの周りの人たちの反応に気がつき、念のためというように僕に聞いてきた。
「結婚…した訳じゃないですよね?その、日本での正規の手続きで出来る異性とのやつ…」
僕はとりあえず首を振った。
すると住吉君は、わざとらしく声を張り上げて言った。
「なーんだ!彼女とのペアリングっすか!俺の知らない間に結婚しちゃったのかと慌てましたよ!まあ、そうですよねー!マリさんが他の人に狙われないように唾つけておきたいですもんねー!」
クスクスと遠くの方で笑い声がおきている。誰かが、
「木月くんがいつの間にか結婚したのかなって、お祝いを言おうかどうか、みんな悩んでたんだよー!」
なんて、声があがった。
うう。みなさんに変な気を使わせてしまっていたのか。申し訳ないなあ…。
「す、すいません!あ、あの、指輪、この指にサイズがちょうどよくて…、深い意味はなくて…」
とか、謝って言い訳してみるけれど、みなさんの視線が暖かい。
「結婚式は呼んでよー」
なんて声に、愛想笑いと苦笑いの中間を返す。
住吉君が訳知り顔で顔の間近でウィンクをしてきた。
そのとき、
「おい!何してる!!」
ロビーのドアが開くなり、そこに仁王立ちのように姿を見せた人物は、「おはようございます」の挨拶もなしに僕と住吉君の方にズンズンと近づいてきた。