*BL Original novel・4*
□All Truth
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「み、宮元さん…、お、おはようご…」
固まる僕の前で、住吉君の頬が引き攣ったのが見えた。むんずと宮元さんの腕が伸び、住吉君の肩を掴もうとしたそのとき、
「あ!い、いいリングですね!宮元さん!」
住吉君が上擦った声で言った。宮元さんがぴたっと動きをとめた。
「あ?」
宮元さんは伸ばしていた手を自分の頭に乗せた。ボリボリと頭を掻いて見せた。
「余計なことを言ってんじゃねえよ、住吉」
そして、住吉君の肩をぐいっと押して、僕の前から住吉君を動かした。
住吉君は、宮元さんが手を上げたときに、殴られるとでも思ったのか、両手で自分の頭を覆っていた。そこまで怖がらなくても…。
「す、すいません!俺、ただ、マリさんのリングについて話していただけですから!」
住吉君の声がやけにロビーに響いた気がした。みんなこっちの様子を覗っているような気がする…。
宮元さんは、一瞬、僕の目をじっと見つめてから、フッと笑った。
「それは、うちの事務所に入ったら貰える契約の指輪だ。なあ、マリ?」
「へ?」
宮元さんの言葉に僕までが驚いてしまった。
「裏に事務所名が刻んであるんだ。これをはめたら、もう逃げられねえ…という…」
住吉君は目をぱちくりさせて言った。
「お、恐ろしい指輪ですね…」
「ふん!いいじゃねえか。幸せそうな顔してつけてる奴もいるんだから」
宮元さんに顎でしゃくられ、僕は左手を隠していた右手をそっと外した。
「…裏に文字が書いてあるの気付いてませんでした…」
しかも、事務所名って!
宮元さんは珍しく機嫌が良さそうな顔をしながら、僕の頭をポンッと叩いた。
「わざわざ外してまで確認するなよ?失くしたら事務所追い出すぞ」
誰かがスタジオの扉を開け、ロビーの人たちがその中へ移動を始めた。僕も宮元さんと並んでそちらに向かい始める。
僕より頭一つ背の高い宮元さんを見上げながら聞いてみた。
「なんて書いてあるんですか?」
宮元さんは僕の方を見ないままで、ぼそっと言った。
「All Truth(オール トゥルース)」
その言葉を聞いて、僕の顔面は一瞬で熱くなった。微かに宮元さんの頬も赤い。宮元さんが僕の尻をパシンと叩いた。
「仕事前にテンション上げてんじゃねえよ!」
「み、宮元さんこそ!」
「いいなあ。俺も事務所移ろうかな?」
冗談ぽく住吉君が言ってきた。それに向かって年上の宮元さんのとった行動は…、アッカンベーだ。
「ベー。お前なんか入れてやらねえ」
「ひどいな。アッハハハ!」
楽しそうに笑いながら住吉君もスタジオに入って行った。
僕は台本を抱え直し、その後に続いた。
台本には僕や宮元さんの名前は書かれているけれど、事務所の名前なんかは書かれていない。誰がどこの人かなんて、そんなのは仕事には関係ない。
けれど、指輪に刻まれた文字は、きっと僕の誇り。
「本番中に台本落としても泣くなよ」
宮元さんが前髪を掻き上げながら僕に言った。決意を胸に、張り切る僕だけど、宮元さんにとってはいつまでも心配をかけるヒヨッコだ。
「何言ってるんですか!ほら、行きますよ、社長」
宮元さんは、クスクス笑いながら僕の後から付いてきた。
僕は、指輪のはめられた手をギュッと強く握りしめた。
(おしまい)