*BL Original novel・4*
□シークレット・ナンバー
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朝、洗面所で顔を洗っている僕の横で、千堂さんは電気シェーバーで念入りに髭剃りをしていた。
「今日のお仕事、何かあるんですか?」
タオルで顔を拭きながら、聞いてみた。鏡に映る千堂さんは今日も朝から凛々しい。
「ああ、山の貸し別荘でドラマのロケがあるらしくて、警備を頼まれたんだ」
千堂さんは鏡を覗き込みながら、身だしなみをさらに念入りにチェックした。
「わあ!いいなあ!何のドラマかな?女優さんとか会えたりするのかな?!」
はしゃぐ僕のお尻をポンッと軽く叩いてから、千堂さんは、
「サスペンスものらしいし、死体役の役者さんくらいしか来ないんじゃないのかな?」
なんて笑いながら茶の間に戻って行った。しばらくして、
「アチッ!」
茶の間から千堂サンの声が上がった。そして、カシャンッと瀬戸物の割れる音がした。
「大丈夫ですか!?」
慌てて茶の間に戻ると、苦笑いをしながら割れた湯のみを千堂さんが片付けていた。
なんだか…、妙な不安が胸をよぎった。
給食の時間、はしゃぐ子供達の会話の中に、早速噂が出ていた。
「今日、じいちゃんの別荘のとこでドラマのロケやるらしいんだぜ!」
「すっげー!誰が来んの?!」
「ええと…、じいちゃんはスッゲー好きだって言ってたけど…。結婚したり離婚したり結婚したりした女!」
ん?そんな噂になった女優さんを週末のワイドショーで見た気がする。って、かなり人気女優じゃないか?!千堂さん…今頃、鼻の下伸ばしてなきゃいいけど…。
「先生!るーちゃんが休みの分のプリン!じゃんけんしていい?!」
「あれ?2個も余ってる!やったー!せーの!じゃんけんぽーん!」
…あ、僕の取り忘れたプリンまでじゃんけんの景品になってしまっている…。
教室の窓から見える澄み渡った青空と、鬱蒼と木々が生い茂る山々を眺めながら、なんだか、胸の中がモヤモヤとした。
仕事が早めに終わり、急いで家に帰ったけれど、千堂さんの姿はなかった。仕事が長引いているのかな?
そして、珍しいことに家の電話に留守電が1件入っていた。駐在所への電話は別の回線だし、僕や千堂さんへの個人的な用事なら殆どの人が携帯の方にかける。
再生ボタンを押すときに、何故かドキドキとした。
『ピーッ…、…千堂さんのお宅でしょうか?こちらは○○病院です。千堂充さんがこちらに運ばれて治療を受けられています。お家の方、戻られましたら病院の方へ…』
僕は電話から聞こえる声を最後まで聞かずに表に飛び出した。バスの本数も少ない、タクシーを呼んでも時間がかかる。泣き出しそうな胸を抑えながら、隣の家の玄関を叩いた。