*BL Original novel・4*

□トライアングル
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全身に送り込まれる律動が、寄せては返す波のように心地いい。
うっとりとベッドの上で溺れている。
ゆっくりと時間をかけて膨らませた快感が、泡のように弾ける…っ!と思ったその時だ。
ポツッ…、俺の身体の上に覆い被さる先生の顎から一滴の汗が、俺の頬に滴り落ちた。そして、先生は石のように固まった。

「…ん…?…動いてよ?せんせ…」

俺の身体の中に埋まったままの銛が、急激に絞み、先生の顔から音を立てて血の気が引いていくのが見えた。

「おい?先生、大丈夫?どした…」

先生の腕を掴み、身体を起こそうとしたところで、俺も事態に気が付いた。
寝室のドアが開いていた。そしてそこに、一人の男が立っていた。
もうすぐ沈む太陽のオレンジ色の光を背中に浴びて、長い影が俺達のいるベッドの上まで伸びてくる。

「失礼。ノックはしたんだが」

この島では見慣れない、キザなスーツ姿の男は、口元をニヤリと上げた。
先生は、俺の中から萎えたそれをズルリと引き抜き、身体を隠す前にベッドサイドに置いてあった眼鏡を探った。その手が微かに震えている。

「ずいぶんこの島が居心地いいんだな…、とは思っていたが、そういうことか」

「…の…野崎さん…、どうしてここに…」

先生の呟いた名前と、そのスーツ姿が頭の中で結びついた。

「ああ、なんだ。先生の昔の男か」

先生が初めてこの島に来た時に、先生を追いかけて来た未練男が野崎だ。確か、先生と同じく医者をやってる。そして、そう…、結婚したはずだ。
俺は先生の裸体を隠すようにシーツを掛けてやると、ベッドから飛び降り、ググーッと大きく伸びをした。野崎の視線が、俺の裸の身体をチェックするかのように上から下まで流れた。先生のと違って、俺のはまだ興奮を保ったままやり場無く震えている。俺のそこに目を留めて、野崎は微かに眉を上げた。
昔の男だろうが、今は所帯持ちなんだろう?と、俺の身体を見せつけてやった。

「悪いな、今立て込んでたんだ。先生の客なら茶でも出すから、向こうで待っててよ」

俺は応接間を指差すと、シーツに隠した先生に耳打ちした。

「せんせ、ちょっとシャワー浴びて、ついでに抜いてくる。寝た振りしてそのまま待ってて」

先生は素直にシーツに潜り込んだ。
俺は野崎が部屋から出て行くのを確認して、奥の風呂場へと向かった。


   *

「あー、どうぞ、お構いなく」

なんて言いながら、野崎は、長い足を組み、俺の入れた茶をきざった手つきで口に運んだ。

「君には会ったことがあるね。子供だと思ってたのに、ちょっと見ない間にずいぶんと成長したね」

野崎はまた無遠慮な目で俺を見てくる。まるで値踏みするかのようだ。

「俺もあんたを覚えてるよ。泣きながら先生に追いすがってきてたね。今日は泣いてないから誰だかわからなかったよ」

「…言うね」

野崎はクスクス笑いながら湯呑みをテーブルに戻した。その時、俺の後にシャワーを浴びていた先生が戻って来た。先生は首にかけたタオルを握り締めながら、部屋の入り口で立ち止まる。

「の、野崎さん…。な…、何の用…だよ…」

うつむき加減に声を震わせる先生を見て、俺の胸に嫌な動揺が走った。妙に先生が色っぽく見えたんだ。チラリと野崎を見れば、いやらしい目を先生に向けている。
俺は、ググっと苛立つ腹の虫を抑えて、とぼけた声を上げてみた。

「そういや、あんた、どうやってここに来たのさ?定期船は今日じゃなかったはずだけど?」

「船をチャーターして来た」

誰だよ!こいつを乗せたやつは?!

「へえ…。んで、どこに宿とってんの?もしまだならいい民宿紹介すんよ?今の時期なら鯛とか上がってるし…」

「魚は食べられない。生臭くてね。それに、観光に来たつもりでもないから、宿はいい」

じゃあ、今すぐ帰れ!とでも怒鳴りつけようとした時、診療所の電話が鳴った。先生は電話に向かう。
また二人きりになった途端、野崎は俺に向かって言ってきた。

「潤一は、泣き顔のほうが可愛いのを知らないんだな、君は」

顎をシャクる偉そうな態度に、何を言っているのか理解するのに時間がかかってしまった。わかった途端、カッと頭に血が上る。

「そんなもの知ってる!せん…、潤一は、俺に抱かれながら『もう許して!今までの男の中で凪が一番!』て言うんだぜ?!」

ふんっ!と言ってやった途端、パコンと頭を叩かれた。振り返ると赤い顔をした先生が俺を睨みつけている。

「凪!お前は何を言ってるんだ!」

俺を叱りつけながら、俺の腕を引いた。そして、小声で、

「凪、お前んちの爺さんが怪我をしたって。屋根の修理をしていてハシゴから落ちたらしい。大したことはないようだが、ちょっと行って診てくる」

「あ、うん。俺も行く」

聞き耳を立てていた男までが、

「俺も行こう」

と、立ち上がった。
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