*BL Original novel・4*

□王様に見つからないように
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王様のお世話係だった兄が失踪したらしい。
村長さんの家にお城の使いがやって来て、そう告げたらしい。
僕の家にやってきた村長さんと長老たちが、さらに僕に説明するには、王様は酷く悲しんでいるとのこと、しかし、兄によく似た弟がいることを知り、早速所望されたとのこと、僕はすぐにでもお城に上がらなければいけない、とのこと。
村長さんは言った。

「お城での礼儀作法などは俺等では教えられんからな。しかし、お前はおとなしくて素直な子だから、粗相などをしでかすこともないだろう」

両親が居ない僕達兄弟を、村の人達は皆、家族のように優しく育ててくれた。
ある日、お忍びで視察に来た王様が兄を見初め、お城に連れ帰ってからは、村にもお城からの施しが与えられ、皆、喜んでいた。
僕はお城に上がることをすぐに頷いた。それで、皆が喜んでくれるなら。そして、兄の行方も心配だった。

「パル、お前は今、幾つになったか?」

長老が聞いてきた。

「16です」

僕が答えると、

「その歳ならば、想いを交わした相手も居ろう。潔く別れを告げられるかの?」

今度は少し悲しげな瞳で聞かれた。僕は、その言葉に顔が熱くなるのを感じた。

「あ、あ…の…、そういう相手は居ません…」

色恋には疎い僕だ。なぜだか、村長さんと長老たちは顔を見合わせた。そして村長さんが、

「うちの倅とは、仲良くしていたのではないか?」

と言ってきた。村長さんの息子、ガイとは、幼馴染だ。どちらかというと、ガイは、兄と年齢が同じだから仲が良かった。僕は、おまけで遊んでもらっていたと思う。
僕が返事に困っていると、村長さんが溜め息混じりに言った。

「ガイのお前に対するあの様子!俺はてっきり出来てるものだとばかり…。ううむ…。お城に上がったその日に王様からお声がかかるかも知れないというのに、初心子だったとは!王様はリッシュを失われてからえらく気が立っているとお聞きしている。お慰めする手管どころの話ではないな…」

何を言われているのかわからない僕は、ただ、キョトンとして村長さん達の相談を眺めていた。しばらくして、相談がまとまったのか、村長さんが優しい声で僕に言った。

「パル、今夜ここに、ガイを寄越す。いい子でガイの言うことを聞くんだよ。お城に上がるには必要なことだから、恥ずかしくても逃げ出してはダメだよ」

僕は、夕食が作りかけてある台所に目をやった。ガイが遊びに来るなら、もう一人分多く作らないと。


  * * *


なかなかやってこないガイを待っていたら、いつの間にかテーブルに突っ伏して眠ってしまっていたようだ。
肩を揺すぶられて、寝ぼけ眼で顔を上げると、不機嫌そうなガイの顔がすぐそばにあった。そして少しお酒臭い。

「ったく!お前、何、呑気に寝てやがんだよ!」

普段からぶっきらぼうなガイだけど、今夜はお酒のせいか、目付きまでも悪い。

「あ…、ごめ…。え、えっと、ガイ、夕ご飯…」

ガイはガタンッ!と僕の向かいの椅子に腰を下ろした。

「腹は減ってねえけど、お前が俺のために用意したんだろ。食うよ」

僕は慌てて立ち上がり、冷えたスープを温め直しに台所へと急いだ。

「はあ…」

ガイの大きな溜息が聞こえる。

「どうしたの?お酒、飲み過ぎたの?」

心配して尋ねたのに、ガイは怖い顔でギロリと僕を睨んでくる。なんだよ?!

「…酒場で飲んでたらオヤジ達がやって来た。そしてとんでもねえことを言い出しやがった。酒の酔いなんか、一片に消し飛んだ」

消し飛んだ、という割には、顔は赤いし、心底機嫌が悪いし。
スープとオムレツを二人分テーブルに並べ、僕はガイの向かいの席に座った。ガイは適当な感じに「頂きます」と言ったけど、ひとくち食べたら、

「美味いな。パルは俺の好物を作るのが上手になったな」

と、少しだけ顔をほころばせてくれて言ってくれた。

「ありがとう!でも、これ、ガイの好物だからじゃなくて、僕の好物だから!」

そう言うと、ガイはクスっと笑った。

「どっちでも同じだろ」

「そっか!」

夢中になってご飯を食べていると、ガイがジーっと僕を見てきた。そして、

「なあ、パル、お前、俺の事どう思ってた?」

なんて聞いてきた。

「んー?もう一人のお兄ちゃんかな?意地悪で口の悪い方の」

なんだと!っていつもみたいに怒られるかと思ったら、ガイは「そっか」と小さな声で言ったきりだった。そして、何でもない事のように続けた。

「そういや、こないだリッシュのやつに会ったぞ。よくもまあ、城から逃げ出してきたよなあ…」

「え?!お兄ちゃんに会ったの?!でも、だって、お兄ちゃん、お城から失踪したって…」

ガイは夕飯をペロリと平らげ、「ご馳走様」と手を合わせてから続けた。

「お前のことよろしく頼むって。お前には、ほとぼりが覚めた頃会いに来るつもりだとも言ってたな。…はぁ…。しかし!こんな面倒なことになるんだったら、リッシュのやつを引き止めておくんだった!」

食べ終わった食器を台所で片付けていると、ガイが僕の背中に言った。

「おい!俺んちで風呂入って来い。用意されてるはず」

あまり風呂が好きでない僕は、

「えー…」

と唇を尖らせ振り向いたけど、ガイは容赦なく、親指をクイッと玄関へと向けた。
僕はとぼとぼと家を追い出され、ガイは腕を組み、不機嫌の塊のような顔で僕を追い出した。
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