*BL Original novel・1*
□優しい傷A
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「……起きます。すいません」
小さな笑顔で、千堂さんは部屋を出て行った。
夕べの飲み散らかしはすっかり片付けられていて、居間のテーブルには典型的な日本の朝ごはんが並んでいて、感動する。
ご飯、干物、味噌汁、納豆……。
夕飯も食べていなかったせいもあってか、胃袋は嬉しい悲鳴を鳴らした。
「これ、千堂さんが作ったんですか?」
「ん?魚を余分に焼いただけで二人前になっちゃうとこがいいだろ」
千堂さんは、テレビのニュースを見ながら味噌汁をすする。
「…僕も一人暮らしなんですけど、こうはいかないですよ」
手を合わせて、ありがたく魚を突ついた。
「独身の年季が違うかな。あはは」
少し髭の伸びた顎をさする。
「食わなきゃ、体力もたないんだよ。食べられそうかい?……って、心配はいらなそうだな」
僕の箸の進みに、千堂さんは目を細めてた。
「あ、朝の電話、何か事件ですか?」
まさか、僕のことじゃないだろうかと少しだけ心配がよぎってたりして。
「ああ。あれは全部の交番に一斉に掛かる毎朝の連絡。昨日は事故も事件も何も無しとのことです」
「へ、へえ。便利ですね。目覚まし代わりになって」
あはははと千堂さんが笑った。
ほっとする僕。
僕が魚の干物と格闘している間に、千堂さんはお巡りさんへと変身を始めた。