*BL Original novel・1*
□優しい手
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家の方の鍵をガチャガチャ千堂さんが開けてると、事務所の表の方から声がした。
「すいませーーん!」
その時、家の中からも電話のベルが鳴り始めた。
「……。あっちお願い」
親指でくいっと事務所の方を指差すと、千堂さんは家の中へと消えていった。
ええ?!
いいのかな…?
おずおずと表に回り、事務所のガラス戸の前に立つ子供に声をかけた。
「こんにち…は。どうしたのかな?」
こんなんでいいのかな?
「お金が落ちてた!」
怪しい奴!と疑いもせずに(されても困るが)、その小さな子供が握り締めた拳を僕に差し出した。
手を差し出すと、ころんっと10円玉を僕の手の平に落とした。
えっと…。
拾得物だから…お名前と住所と…。
どしよ?
ガチャっと事務所と家が繋がるドアが開いた。
「お巡りさーん!」
「千堂さーん!」
子供と同時に叫んでしまって、恥ずかしくなる。
また千堂さんが笑いだすかな、と思ったら、意外に真面目な顔でガラス戸に手をかけた。
「10円拾った!」
「お!偉いぞ。ちゃんと交番に届けました!お巡りさんが落として困ってる人をちゃんと見つけておくからね。…はい、ご褒美」
子供の頭を撫で、ズボンのポケットから飴玉を一つ取り出した。
子供は嬉しそうにぺこりと頭を下げてから走り出した。
おお…。
なんていいお巡りさんなんだ…。
「ん?どうした?和喜」
今度は僕の頭にぽんっと手を置いた。
「ご褒美持ち歩いてるんですか…」
ちょっと惚れ直したなんて言えるはずがない。
「いや、たまたまさっき近所のおばさんに貰って…。欲しかったの?」
くすくすと千堂さんが笑い出す。
「ち、違います!」
「和喜のご褒美は…後でね…」
ええ?!
赤い顔でうろたえる僕を見て、千堂さんが堪え切れなくなって笑い出した。