*BL Original novel・1*

□Nostalgic voice
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「あーすいません。若くて可愛い男の子を1人お願いしますー」

懐かしい奴の着信だ、と思ったら、相変わらずの奴だった。

「かける場所を間違っちゃいないか?うちはデートクラブじゃない」

「相変わらずだな、神崎。んでさ、いくらよ?10万くらいでなんとかなんねえ?」

「話が見えん。切るぞ」

「おい、こら!仕事の話してんだよ!お前こそ、俺の声聞いたとたんに頭がそっち行っちゃってんじゃねえの?しゃあねえなあ…今夜どうよ?」

声の主は…昔の…いや……なんでもない、昔の知り合い…大沢だ。
いつアメリカから戻ってきたのか。いや、これ日本国内からでいいんだよな?

「仕事って、何やってるんだ、お前」

別に近況など聞きたくもないが、仕方がない。

「あ、俺?今アミューズメントつかイベントの製作してんだわ。明日からメッセでやる展示会のブースの子が倒れちゃったらしくてさ。急いで探してんだわ。愛想がよくてしゃべれて子供受けしそうで元気で可愛い子見繕ってくれよ」

大沢のことはどうでもいいが、仕事の話は受けておこう。
俺はデスクの上のスケジュール表に手をかけた。

「日程と時間と内容と予算」

「今言っただろう…」

わかるか!
ダン!と踏みならしてしまった足に、事務所内から視線が集まり、こほん、と一つ咳払いをしてみせた。
くすくすと電話の向こうで聞こえるのが余計に腹が立つ。

「なあ、マネージャー込みでいくら?」

「付いて行きません。うちはアイドル事務所じゃありません」

近くにあったメモ用紙にボールペンでぐちゃぐちゃと俺の心情を書き表した。

「なあ、なあ、なあ!」

あーーー!!
俺は堪らず、近くのデスクの子に、俺の携帯を投げた。

「はい?」

「仕事の依頼。えーと…」

「おっはようございまーす!」

お。元気な…愛想がよくて、子供受けしそうな…若い男が来た。
いいね。
そのタイミングでこの業界仕事にありつけるよ。

「マリなら空いてるだろ。マリにやらせとけ。って、ことで、話聞いておいて」

ふいに名前が出たのが聞こえたのか、入口できょとんとしているマリを手招きして、俺はどさりと椅子に座りこんだ。
あー…。
面倒事は嫌いだ…。

「…あの、神崎さんに代れって電話の人が騒いでますけど…」

「急に腹が痛くなってトイレから出てきませんて言っておいて…」

「……聞こえてるぞ、ってわめいてます…」

なら、本当に行ってこよう。
マリを俺の身代わりに?椅子に座らせ、そそくさとその場を逃げ出した。
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