*BL Original novel・1*
□ボイスん。ダメージ
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この声は…毒?
ボイスん。ダメージ
スタジオに向かう足がなぜか重かった。
この頃、たまにこういうことがある。
なんだろう…。
カバンの台本がやけに重い。
「おひさっす!木月さん」
スタジオ入りすると、相変わらず能天気で格好のいい住吉くんが声をかけてきた。
「俺の一人のやつはもうとり終わったんで。待ってたんですよー」
「え。そうなんだ。あー聞きたかったな。住吉くんのやつ」
また今も誰かがスタジオ入りしてるんだろう。本番中のランプが光ってる。
「うそでもうれしいっす!木月さんにそう言ってもらえれば。あ、そうだ、聞きたいんですけど、これって貰えるんですかね?」
えへへっと笑う住吉くんに愛想笑いを返して、廊下に置かれているソファーに腰を降ろした。
「貰えると思うよ」
「やった!ゲーム代浮くし!」
誰かさんの雄叫び満載のゲームとかは、よくその誰かさんと一緒に家で遊びまくってたりしてる。
だから今度は僕のゲームで遊べるなんて、ほくほく嬉しい。
住吉くんやっつけて遊ぶか?
んーでも、この頃宮元さんは部屋に引き籠りだからなあ…。
「木月さんってほんと、よく表情変わりますよね?今もニヤニヤしたり難し顔してみたり」
「え…」
恥ずかしくなって、カバンから慌てて眼鏡を取り出し、かけてみる。
顔は隠れないけどさ。
職業病…とか言われてしまったが、乱視が進んでしまって、仕事中はかけるようになったこの頃。
パッとランプが消えた。
次はすぐに自分の番かな?って慌てて台本をめくる。
「木月くん、だよね?」
遮音ドアから出てきた役者さんに声を掛けられて慌てて顔を上げた。
「お疲れ様です!」
「お疲れ。でもこの後絡みとるんだって。少しどっかで時間潰してるね」
「はい!次、僕ですか?」
他の事務所だけど、たまに顔を合わせたことのあるその人は、開いたままのドアを振り返った。
「どうだろう?…がんばってね」
「はい!」
僕が頭を下げる横で、住吉くんが、
「あ、お疲れっす。キーボイスの住吉…」
とか言いかけて、僕に苦笑いを送ってきた。