*BL Original novel・1*
□只今本番中
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「なんでお前がいるんだ…」
スタジオの中に一歩入った瞬間に、宮元さんは不機嫌な声を出した。
宮元さんが通せんぼしてて中には入れない。
「えー?!台本読んで下さいよー。俺の名前書いてあるじゃないっすか!」
ああ、住吉くんか。
って、宮元さん、台本読め。
「あ、木月さーん。おはようっす!また相手役っす!よろしくー」
宮元さんがどかどかとスタジオ内のソファーに向かったので、開いたドアから中に入った。
「時間があんまりないんで、軽く一発流してもらって、すぐ本番行っちゃいたいんだけど、いいかなー?」
僕の後ろから監督さんがスタジオ内を覗き込んだ。
時間があんまりないのは、この不機嫌そうにふてぶてしくソファーに深々と座って、偉そうに足を組んでるこの人のせい。
この後もまた別の仕事が入ってるんだって。
そう、マネージャーさんが言ってた。
「遅刻しないように見張っとけ」
とか、僕に言いつけるくらいなら、現場に来て下さいよ…。
波乱がありそうで…。
「えー、もう、このキャスティングはばっちりはまり役なんで、いつものようにやって下さい」
監督さんが台本を丸めて宮元さんを指し示した。
「みやもっちゃんは、もーいつもの低音凄味で、あっちはもう、お任せで」
「またサディスト役ですか…」
宮元さんが台本を捲りながらぼやく。
「木月ちゃんは、いい子ちゃんキャラで。元気はつらつかわいーくやっちゃって頂戴」
「は、はあ…」
いちお、台本練習してきたから、まあ、そんなだとわかってはいる。
「住吉くんは、爽やか好青年!んー、木月ちゃんより年下の設定だけど、そこんところは気にしなくていいや。ヒーローっぽくね」
「はい!」
住吉くんが立ち上がって監督さんに頭をぺこりと下げた。
真面目になったなあ…住吉くん…。
とか、感心している場合じゃない。
僕も、
「よろしくお願いします!」
と、スタジオを出て行く監督さんに頭を下げた。
赤ペンでポリポリ頭を掻いてる宮元さんは、そちらを見ようともしない。
だけど、台本に落としている視線は真剣なもので、邪魔しちゃいけないな、って感じなんだ。
僕ら新人なんかより、ほんと、すっごく忙しい宮元さんだから。
台本に目を通す時間を今少し貰ってるなら、邪魔はしちゃいけない。
僕は、そっと住吉くんの近くに腰を降ろした。